骨から肉まで愛してる、皮も好き
第一章:完璧な上司の「不憫な」裏の顔
 都内の大企業で働くベリーズ・カフェ男(仮名、32歳)は、社内でも有名なハイスペック男だ。高身長、端正なルックス、そして育ちの良さを感じさせる均整の取れた美しい歯並び。誰もが羨む彼に、部下の私は密かな片想いを寄せていた。
 彼の魅力のすべてを語り尽くそうとしたら締め切りに遅れるので、そのあまりにも魅力的な「パーツ」と「仕草」の数々を紹介するだけにとどめよう。たとえば仕事中、ふとした瞬間に彼が片手で前髪を大きく髪をかき上げるときがある。私は、その仕草だけで胸が高鳴り脈拍が跳ね上がるのだ。何より私の鼓膜を震わせるのは、彼の低く色気のある声だった。少しハスキーで、耳元で囁かれるたびに身体の芯が熱くなるの。
 でも、そんな完璧な長谷川さんには、私だけが知る「不憫かわいいところ」があった。仕事は超一流なのに、私の前では信じられないほど不器用で運が悪い。大事なプレゼン直前にコーヒーを派手にこぼしたり、自動ドアに毎回挟まれたり、左右の靴下が違っていたりする。そのことに気づいて真っ赤になったりするのも可愛らしくて、私は好きだ。照れくさそうに「君にはいつも、恥ずかしい姿を見せてるなあ」なんて言うのも含めて、みんな好き。
 その日も、彼は誰もいない夜のオフィスで、ホチキスの針が指に刺さって「痛っ……」と涙目で指をくわえていた。その情けない姿があまりにも愛おしくて、私はたまらず自分のデスクから絆創膏を持って駆け寄った。
「ベリーズさん、大丈夫ですか? 動かさないでくださいね」
「……すまない、いつも君に情けないところを見せてばかりだ」
 彼の手を取って、私は息を呑んだ。白く、節くれ立った、男らしくも清潔な手。長い指先が私の肌に触れ、頭が真っ白になる。手当てをする私の手元を覗き込もうと、彼が顔を近づけた。その瞬間、彼の体からふわりと漂ったのは、高級な柔軟剤と、かすかな柑橘系が混ざった清潔感あふれる匂い。その匂いが甘すぎて、逆に息が苦しくなった私は、どぎまぎしながら顔を上げた。
「あの、ベリーズさん……」
 見上げると、彼の細い首筋にある、尖った喉ぼとけが上下に小さく動いているのが見えた。その無防備な色気に、私は絆創膏を貼り終えた後も、彼のフェチの塊のようなパーツから目が離せなくなってしまった。
 大注目の喉ぼとけが大きく動き、彼の声が流れ出た。
「手当てのお礼に、週末どこかへ連れて行かせてほしい」
第二章:ドライブデートと、秘めたる悪癖
 信じられないけど、あの言葉は本当だった。不憫なハプニングがきっかけで、私たちは週末にドライブデートをすることになったのだ。彼が運転する高級セダンの助手席に座る。
「出発するよ」
 彼が運転しているところを横から盗み見る。シフトレバーを握る綺麗な手、バックする際に助手席のヘッドレストに回された腕。そして何より、アクセルを踏み込む彼の足元――スラックスの裾から覗く、驚くほど細く、綺麗に筋の通ったアキレス腱。
 私は舌なめずりしそうになって、どうにか耐え忍んだ。
(……ダメだ、私、完全に変態みたい。でも、どこを見ても最高すぎる……)
 目的地である海沿いのパーキングエリアに着いたとき、彼は「少しだけ、待っていてくれ」と言って車を降りた。車外に出て、彼はポケットからおもむろにライターを取り出す。カチリ、と音がして、彼は煙草を吸い始めた。普段のオフィスでは決して見せない、紫煙の向こう側にある気怠げでアンニュイな表情。煙を吐き出す仕草のあまりのセクシーさに、私は助手席のシートを握りしめて悶絶した。煙草を吸う男は嫌いだけど、例外が出来た……こんなことって、あるんだ。
第三章:暴かれたフェチ、始まる溺愛・車内編
 車内に戻ってきた彼は、少し恥ずかしそうに窓を少し開けた。
「ごめん、匂いがついたかな。……実は、仕事で行き詰まった時だけ、こっそり吸っていたんだ。完璧な上司でいたかったんだけどね」
 苦笑する彼の目尻に、優しく、愛らしい笑い皺(わらいじわ)が刻まれる。その瞬間、私の理性のダムが決壊した。
「……ずるいです」
「え?」
「ベリーズさん、ずるすぎます。その綺麗な手も、声も、髪をかき上げる仕草も、アキレス腱も、煙草を吸う姿も……不器用で不憫なところも、全部、全部私を狂わせるのに十分なんです!」
 勢いで一気に捲し立ててしまい、私は自分の口を手で覆った。やってしまった。完全に引かれた。
 車内に沈黙が流れる。ベリーズさんは目を丸くしていたが、やがて、フッと低く色っぽい声で笑った。
「……参ったな。先に告白するつもりだったのに」
「え……?」
「君がいつも、僕の手や首元を、熱い目で見ているのには気づいていたよ。でも、まさかそんなに僕のパーツや仕草を観察してくれていたなんてね」
 そう言ってベリーズさんはシートベルトを外し、助手席の私にゆっくりと覆いかぶさるように距離を詰めてきた。大好きな匂いと、大好きな声が、至近距離で私を包み込む。
「僕も、君のフェチを言おうか? 君が真剣な時に唇を噛む癖、僕を見上げて赤くなる耳、そして今、僕に全部バラされて、完全にキャパオーバーになっているその可愛い顔」
 彼の綺麗な手が、私の頬を優しく包み込む。親指が私の唇をなぞり、そのまま引き寄せられた。
「もう逃がさないよ。君が愛してくれる僕のすべてで、これから毎日、君を溺愛させて」
 重なる唇の向こうで、彼の綺麗な歯並びが私の唇を小さく噛んだ。その唇が私の肌を吸う。呟く。
「骨から肉まで愛してる、皮も好き」
 不憫で、完璧で、どこまでもズルい私の恋人は、私以上に深い熱を唇に宿していた。
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