転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
「いや、でも流石にベヒモスは引くと思うよ」とリュートさんが小さくツッコミを入れる中、あまりの騒ぎに、グリゼルダさんが煙管をくゆらせながら呆れたように笑い出した。
「くふふ、不器用な坊やだね。ユフィちゃん、せっかくだ。ギルドのみんなでこの『伝説の肉』を焼いて、大宴会にしようじゃないか。それが丁重な応えになるよ」
「……宴会?」
レオンさんが不思議そうに首を傾げる。
「たしかに! 皆で食べれば、きっともっと美味しいですよ。レオンさんも、一緒に」
私が笑顔で提案すると、レオンさんの瞳に、パッと眩い光が灯った。
「君がそう言うなら……悪い気はしない。……いや、むしろ、君と同じ火を囲めるのなら、それが至福だ」
そんな気恥ずかしい台詞を真顔で言うのはやめて欲しい。
「よーし、そうと決まれば調理だ! だが……問題はどうやってこの肉を切るかだな。俺の大剣でも傷一つ付かねえぞ」
ガルドさんが困り顔で肉を叩く。
確かに、表面が鋼のように硬い。
「あ、それなら私に任せてください!」
私は前に出ると、巨大な肉の塊に手を触れた。
「【接続】、解除!」
私が思い描いたのは「骨と肉」そして「硬い筋と柔らかい赤身」の接続を解除するイメージ。
刹那、ぽろり、ぽろりと、見事なまでに美しい霜降りの一口サイズの肉片が、魔法のように崩れ落ちて大皿に山積みになっていく。
「なっ……SSSランク魔物の肉を、素手で解体しただと!?」
「すごいぜユフィ! まさに戦場の……いや、厨房の女神だ!」
冒険者たちが歓声を上げる中、レオンさんだけはなぜか誇らしげで熱烈な視線を、私に送っていた。
「次は【待機】!」
強火にかけた巨大な鉄板の上に肉を並べ、表面が香ばしく焼けた瞬間に熱と状態を【待機】で固定。
そのまま内側にだけじっくりと火を通し、最後に一気に解除する。
すると、肉汁を一滴も逃さない、究極のレアステーキが完成した。
「う……美味すぎる!!」
「なんだこの肉! 噛まなくても溶けるぞ!」
ギルド中が「ご馳走だー!」と爆発的な盛り上がりを見せる中、レオンさんは私の隣に陣取り、甲斐甲斐しく最高の部位ばかりを私のお皿に取り分けてくれた。
「さあ、ユフィ。もっと食べてくれ」
「あ、ありがとうございます。レオンさんも食べてくださいね?」
「俺は、君が美味しそうに食べている姿を見るだけで腹が満たされる」
その手つきは、剣を振るう時と同じくらい真剣で、そして極上に優しかった。
ギルドの皆と笑い合い、最高級のお肉を頬張る。
これ以上の幸せなんてない。
――しかし、私はまだ、気づいていなかった。
この「ベヒモスの極上ステーキ大宴会」が、調理の過程で途方もない魔力を上空に放ち、隣国にレオンさんの居場所を突き止めさせる「魔力の標」になってしまったことに。
そして、明日、隣国からレオンさんを連れ戻すための「最強の追手」がこのギルドにやってくることを――。