転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
爆風が届くより早く、レオンさんが私を抱き寄せ、マントで完全に庇い込む。
光が収まった後、ぽっかりと開いた巨大なクレーターの底に現れたのは――。
『我が眠りを妨げ、魂の盟約を結んだのは、小さき人の子か』
空を覆うほどの巨大な翼。
黒鉄の鱗。
神話の絵本でしか見たことのないような、圧倒的な威容を誇る『エンシェント・ドラゴン』が、そこに鎮座していたのだ。
「な、ななな……古竜!? なぜこんな辺境の地下に! だ、団長! 全軍撤退――」
シオンさんがパニックを起こして剣を抜こうとしたが、古竜は私の方をじっと見つめると、スゥッとその巨体を眩い光で包み込んだ。
そして。
「きゅるんっ」
光が晴れると、そこには手のひらサイズまで縮んだ、チワワのように愛くるしい黒鉄の子竜が、パタパタと翼を羽ばたかせていた。
「ええええええっ!? ちっさ!!」
『えへん。あるじよ。たましいの接続、確かに受け入れた。われらのいのちは今より一つ。我が悠久のいのちと無敵のうろこは、なんじのものなり』
脳内に直接、威厳ありつつもちょっと高めの可愛い声が響く。
「もしかして私、とんでもないものを釣り上げちゃったってことでしょうか」
子竜が私の胸元に飛び込んできて、スリスリと頬ずりをしてきた。
しなやかな鱗はつやつやしていて温かくて、すっごく可愛い!
「なんだか身体の底から力が湧いてくるみたい」
『えへん。左様~われと心臓を共有したあるじは、ぜったいぼうぎょの身体を手に入れたも同然なのだ。えへんえへん』
「最高の耐久バフじゃないですか!」
私は大喜びで子竜を抱きしめた。
まさか伝説の激レアペットをゲットできるなんて!
この辺境、ガチャの排出率がバグっているのでは!?
しかし。
私がホクホク顔で子竜を撫でていた、その背後で。
空気が、完全に凍りついていた。
振り返ると、レオンさんが一切の感情を排した、氷のように冷たく美しい顔で、静かに剣を抜いていた。
ギャグのような怒りではない。
純粋で、圧倒的な『排除』の意志が瞳に宿っている。
「ユフィ。少し、そこを退いてくれないか。その小賢しいトカゲを、塵一つ残さず次元の彼方へ消し去る」
「ちょ、ちょっと待ってください! この子は何も悪いことしてませんよ」
「俺の至宝に気安く触れ、あろうことか『命を共有する』などという呪いをかけた罪……万死に値する」
レオンさんの剣が、音もなく子竜に向かって振り下ろされる。
しかし、キンッ!という甲高い音とともに、レオンさんの剣撃は子竜の放つ見えない障壁に弾き返された。
『無駄だおっさん! われは古のドラゴン。この世のいかなる物理攻撃もわれには通じぬぞお。えっへーん』
「ほう? ならば次元ごと斬り裂いて塵に還してやろう」
「やめてえぇぇ! 私たち心臓繋がったみたいなので、この子がダメージ受けたら私も死んじゃいますから!!」
私が叫んだ瞬間。
ピタリ、と。
次元を斬り裂く寸前だったレオンさんの剣が、微塵のブレもなく空中で止まった。
「ユフィの命が……その小賢しいトカゲと、一蓮托生だと……?」
「そうなんです! だから攻撃しちゃダメです!」
死なないかもしれないけど、痛いのは流石に嫌だ。
レオンさんはゆっくりと剣を鞘に納めた。
そして、私の腕の中にいる子竜を、絶対零度の瞳で見下ろした。
「貴様。もしユフィの身に少しでも危険を及ぼせば、その不老不死の魂ごと永遠の苦痛を刻み込んでやる。彼女の命を預かった自覚を持て」
低く、地を這うような冷酷な声。
伝説の古竜であるはずの子竜が「ぴっ」と小さく震え、怯えたように私の腕の奥に隠れてしまった。
★
その夜。
野営の焚き火の前で、レオンさんは私の膝の上で眠る子竜を、複雑な瞳で見つめていた。
「俺は必ず、その不遜な契約を解除する方法を見つけ出す。君の命も、運命も預けるのならば、それは俺であってほしい」
レオンさんは私の髪にそっと触れ、ひどく切なげにそう囁いた。
「個人的にはか弱い身の耐久力アップはありがたいんですけど……」
「俺がすべて防ぐ。君が傷つくことなど、天地がひっくり返ってもあり得ない」
ただのペットに対するレオンさんの重すぎる感情に首を傾げつつ、国境の夜は更けていく。
そしてシオンさんはというと、魔力切れで少し離れた切り株から転がり落ちて、で死んだように眠っている。