Nice Bag for Your Back
 違う、のかなぁ。日陰になったテントから見上げる空は抜けるように青くて。
「順番が違う。」
「順番?」
「そう。あいつは実花ちゃんが好きだから作ったの。そんな鞄が実花ちゃんに似合うのは当然で、だから鞄を使う実花ちゃんが好き」
 私を?
「でも話すのは鞄の事ばっかりなんです」
「そりゃ、ぴったりな鞄を背負ってる実花ちゃんが好きだから」
 なんだか話がグルグルしてる。
「その心は?」
「実花ちゃんが背負わないと鞄は好きじゃない」
「そうかなぁ」
 たくさんの私の名前が刻まれた鞄。私がいなければ存在しない鞄。
「俺も俺の帽子をかぶってくれた方が、好きだよ」
「まあそれは、そうなのかもだけど、なんていうか比率的に」
「そのうち逆転するかもしんないじゃん。まだ付き合ったばっかじゃん」
「そうかなぁ?」
 ちょっとそうは思えないほど鞄偏重な視線に感じる。
 でも私のために作ってくれたのは本当で。
 そうして家に帰って眺めた大量の鞄は確かに全部私にジャストフィットしてて。試しに最初にもらったリュックを背負う。調整しなくても私の背中にジャストフィット。きっと他の人の背中にはこんなにぴったりにはならないんだろう。そう鏡の向うの鞄が私に語りかける。
 誰でもいいわけじゃ決してない。
 はぁ。

 私は宗吾のどこが好き?
 優しいところ。
 人懐っこいところ、まるで大型犬みたいだ。
 でも意外とシャイで、作業中に話しかけられるのをすごく嫌がるところ。
 嫌なところは?
 鞄。
 鞄。鞄。鞄鞄鞄鞄鞄鞄。鞄。
 でも宗吾の鞄自体は、好き。
 ……重いよ。
 でもスタートが私、なのか。
 その日久しぶりに最初にもらったリュックを背負った。淡いグリーンのTシャツの背中には少しだけフィットしすぎて落ち着かない。そうして街を歩く。世の中の人はたくさんの鞄を持っている。持っていない人はほとんどいない。
 宗吾のことはよくわからない。でもそれはそうなのかもしれない。まだ付き合ったばっかだし。
 なのにたくさんの鞄。まあこれも溺愛っていうのかな。好きじゃないとこんなに作らない、のかな。でもそれがどこに向かっているのかはよくわからない。
 うん、よくわからないな。でもやっぱり、嫌いじゃない。てか好きなんだ。好きってそういうものかもしれない。もっとよく知っていけば……うーんでも鞄前提なのは変わらない気がするんだけど。
 古びた二階建ての建物には榎並鞄製作所の看板がくっついている。私の背中のリュックみたいに。だからその扉をトントンとたたく。
「あの、宗吾……?」
 そして不審げにドアを開ける宗吾が私がリュックを背負っているのを見てこの上なく嬉しそうに微笑んで、私はちょっとげんなりした。


Fin
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