ひまわりが咲く場所で(続)

by瑠唯

目の前で、梨衣が苦しそうに頭を押さえた。

「っ……。」

「梨衣!」

思わず名前を呼ぶ。

いつもなら冷静でいられるはずなのに、今は違った。

頼む。

何も思い出さなくていい。

いや……。

思い出してほしい。

相反する気持ちが胸の中でぶつかり合う。

そのとき、梨衣が小さくつぶやいた。

「……ひまわり。」

俺の鼓動が止まりそうになった。

「ひまわり畑……。」

その言葉を聞いた瞬間、時間が止まったような気がした。

その場所は、俺と莉緒だけの秘密だった。

誰にも話したことはない。

忘れられるはずのない、俺たちの思い出。

⸻

夏。

青い空の下、一面に広がるひまわり畑。

「瑠唯!」

振り返ると、莉緒が笑っていた。

「こっち!」

俺は苦笑しながら歩いていく。

「転ぶなよ。」

「子ども扱いしないで!」

ひまわりの中でそう言って笑う莉緒は、太陽みたいだった。




このひまわり畑だけは、二人だけの特別な場所だった。

帰り際、莉緒が俺の小指を握った。

『もし、生まれ変わっても……。』

『必ずお前を見つける。』

そう約束した。

そして999本のひまわり。

でも——。

俺は約束を守れなかった。

莉緒は俺の前からいなくなった。

何年たっても、忘れることなんてできなかった。

⸻

「瑠唯……。」

現実へ引き戻される。

梨衣が俺を見つめていた。

その瞳は、今までとは違う。

「思い出した……。」

涙があふれている。

「ひまわり畑……。」

「10個の死ぬまでにしたいことリスト。」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。

「……莉緒。」

ずっと呼びたかった名前。

何度夢の中で呼んだか分からない名前。

梨衣は静かにうなずいた。

「全部じゃない。」

「でも、瑠唯との思い出は忘れてなかった。」

俺はゆっくりと梨衣の前にしゃがみ込む。

「……遅い。」

それしか言えなかった。

もっと伝えたいことは山ほどある。

「会いたかった。」

「ずっと探してた。」

「もう二度と失いたくない。」

それでも、口から出たのは不器用な一言だけだった。

「おかえり。」

梨衣は涙を流しながら笑う。

「ただいま。」

その笑顔は、あの日ひまわり畑で笑っていた莉緒と、まったく同じだった。
< 23 / 31 >

この作品をシェア

pagetop