ひまわりが咲く場所で(続)
事件から一か月後。

神崎蓮は逮捕され、梨衣の周りにはようやく穏やかな日常が戻ってきた。

その日、仕事を終えた瑠唯は梨衣に声をかけた。

「明日、予定はあるか。」

「明日は休みですけど……。」

「そうか。」

それだけ言って歩き出す。

「え、それだけですか?」

梨衣が慌てて追いかける。

瑠唯は少しだけ立ち止まり、振り返らずに言った。

「行きたい場所がある。」



翌日。

車で二時間ほど走ると、見渡す限りのひまわり畑が広がっていた。

「……きれい。」

梨衣は目を輝かせる。

夏の日差しを浴びたひまわりが、一斉に風に揺れている。

「ここ……。」

胸が締めつけられる。

懐かしい。

初めて来たはずなのに、涙があふれそうになる。

「思い出したか。」

瑠唯が静かに尋ねる。

梨衣はゆっくりとうなずいた。

「うん。」

一歩ずつ歩きながら、ひまわりを見つめる。

「前世でも……ここに来た。」

「莉緒だった私が、一度だけ瑠唯と来た場所。」

「私にとって、一番大切な思い出。」

瑠唯は何も言わず、隣を歩く。

しばらくして、畑の真ん中に一本だけ古い木のベンチが見えてきた。

梨衣は思わず足を止めた。

「このベンチ……。」

自然と近づき、そっと手で触れる。

「ここでお弁当を食べた。」

「るいが卵焼きとか作ってきてくれて……。」

「塩と砂糖間違えてたよね。」

梨衣は思わず笑う。

瑠唯も小さく息を漏らした。

「覚えていたか。」
梨衣は『世界に一つしかない卵焼き。おいしい。全部食べる』って笑ってくれた。本当はしょっぱかったのに。」

「……おいしかったもん」

瑠唯は珍しく口元を少しだけ緩めた。

「先生、笑った。」

「……忘れろ。」

「嫌です。」

梨衣はくすくす笑う。

やがて瑠唯は梨衣の隣に立ち、ひまわり畑を見渡した。

「約束しただろ。」

「必ず見つけるって。」

梨衣は涙を浮かべながらうなずく。

「うん。」

「見つけてくれて、ありがとう。」

風が二人の間を優しく吹き抜け、ひまわりが静かに揺れていた。
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