ひまわりが咲く場所で(続)

番外編

夏の終わり。

「今日は休みを取ってある。」

朝、瑠唯はいつものように短く言った。

「え? 珍しい。」

「出かけるぞ。」

理由は教えてくれない。

梨衣は首をかしげながら助手席に乗り込んだ。

車が止まった場所を見て、梨衣は思わず息をのむ。

「……ひまわり畑。」

季節の終わりを迎えたひまわりは、それでも太陽へ向かって咲いていた。

「懐かしいね。」

梨衣が微笑む。

「ああ。」

二人はゆっくり歩き始めた。

風が吹き、ひまわりが優しく揺れる。

「覚えてる?」

梨衣が笑う。

「ここで前世の記憶を思い出したんだよね。」

「覚えてる。」

「ここで『おかえり』って言ってくれた。」

瑠唯は立ち止まった。

「梨衣。」

「なに?」

「前世で守れなかった。」

突然の言葉に、梨衣は瑠唯を見つめる。

「ずっと後悔してた。」

「……。」

「だから今度こそ、お前を幸せにすると決めた。」

瑠唯は白衣の内ポケットではなく、今日だけはジャケットのポケットから小さな箱を取り出した。

「え……。」

箱を開く。

中には、ひまわりをイメージした繊細な指輪が輝いていた。

梨衣の目に涙が浮かぶ。

「梨衣。」

瑠唯はゆっくりと片膝をつく。

冷徹で有名な医師が、人前など気にせず頭を下げている。

「前世の約束は果たした。」

「これからは、今のお前と新しい約束をしたい。」

瑠唯は真っすぐ梨衣を見つめた。

「結婚してくれ。」

「俺の人生を、お前に預けたい。」

梨衣は涙が止まらなかった。

「……ずるい。」

「そんなこと言われたら……。」

声にならない。

何度もうなずきながら、ようやく言葉を絞り出す。

「はい。」

「よろしくお願いします。」

その瞬間、瑠唯はそっと梨衣の左手を取り、薬指に指輪をはめた。

指輪は、まるでずっとそこにあったかのようにぴったりだった。

「泣きすぎ。」

瑠唯はそう言いながら、親指で梨衣の涙を優しくぬぐう。

「だって……嬉しいんだもん。」

「……俺もだ。」

梨衣は驚いた。

「今、先生が『嬉しい』って言った?」

「聞き間違いだ。」

「絶対違う!」

思わず笑い合う二人。

瑠唯は照れたように目をそらしたあと、小さく梨衣を抱き寄せた。

「愛してる。」

その一言だけは、照れ隠しもせず、まっすぐだった。

梨衣も瑠唯の胸に顔をうずめ、小さく笑う。

「私も、愛してる。」

風が吹き、ひまわりが二人を祝福するように揺れていた。

前世で交わした「また会おう」という約束。

今世で交わした「ずっと一緒にいよう」という約束。

二つの約束は、この日、ひとつの幸せな未来へとつながった。
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