オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される
第53話 冷徹なるチェックメイト
木曜日、午後。
他社との合同プロジェクトの定例会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
緑川は焦燥を隠せない様子で、資料を握りしめてプレゼン席に立っていた。
彼女が神尾の気を引くために意図的に遅らせていた進行管理データは、すでに神尾と佐伯の手によって「業務上の致命的な遅延」として、あちらの会社のプロジェクト管理責任者へと報告済みだったのだ。
「……ええと、本日の進行データの遅れにつきましては、我が社のシステム連携の一時的な不具合であり、次回までには……」
緑川が必死に弁明を口にする。
しかし、その時、会議室のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、あちらの企業のコンプライアンス担当役員と、今回のプロジェクト責任者。そして、彼らを先導するのは、常務の秘書として一礼する真白と、聖良だった。
「な、どうして……?」
青ざめる緑川に、聖良はタブレットを提示し、淀みのない美しい声で告げた。
「緑川様。本日、我が社のコンプライアンス委員会、および法務部より、御社に対して正式な抗議書が提出されました。こちらの書面は、その写しでございます」
「抗議書……? 何の、ことよ」
「本プロジェクトの遂行にあたり、緑川様が我が社の乾秘書に対し、複数回にわたって業務外での不適切な接触、および精神的な脅迫とも取れる発言を行った件についてです。該当するレセプション会場の防犯カメラ映像、および定例会でのやり取りの音声ログ、さらには目撃者の証言は、すべて証拠として御社の人事部へ提出されております」
聖良が突きつけたのは、逃げようのない完璧な「ログ」だった。
「嘘よ! 私はただ、蓮くんとプライベートな話を――」
緑川は救いを求めるように一課の席に座る神尾を見た。しかし、神尾は美咲を見ようともせず、冷徹な目を担当役員へと向けた。
「御社のコンプライアンス意識を疑わざるを得ません。私的な怨恨を仕事に持ち込み、我が社の役員秘書にまで不利益を被らせる人物がリーダーである限り、このプロジェクトの継続は困難であると判断します。担当者の即時交代を要求します」
「蓮くん……!?」
「公私の混同は慎めと言ったはずだ。緑川、お前とは二度と関わらない」
冷たい氷のような神尾の言葉が、緑川に引導を渡した。
「すべてこちらの管理不足です。乾秘書、そして神尾様、大変申し訳ありませんでした。緑川については、本日付でプロジェクトより解任し、社内規定に従って厳重に処分いたします」
あちらの責任者が深く頭を下げ、緑川を強引に会議室から連れ出していく。
会議室のドアが閉まった瞬間、真白はそっと胸を撫で下ろした。
自分の後ろにいる、心強い仲間たち。
そして何より、自分を最優先に守り抜いてくれた蓮の存在が、真白の心を温かく満たしていく。
会議が終わり、退出する役員たちを見送る中、蓮が真白の隣を通り過ぎる。
すれ違う一瞬、彼は周囲に気づかれない角度で、真白にだけ優しい、蕩けるような極上の笑みを浮かべた。
(真白。もう、君を脅かすものは誰もいない)
その視線だけで、言葉以上の熱い想いが真白に伝わってくる。
過去の亡霊を完全に断ち切った二人は、ここから誰にも邪魔されない、極上の甘い「これから」を紡いでいくのだった。
他社との合同プロジェクトの定例会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
緑川は焦燥を隠せない様子で、資料を握りしめてプレゼン席に立っていた。
彼女が神尾の気を引くために意図的に遅らせていた進行管理データは、すでに神尾と佐伯の手によって「業務上の致命的な遅延」として、あちらの会社のプロジェクト管理責任者へと報告済みだったのだ。
「……ええと、本日の進行データの遅れにつきましては、我が社のシステム連携の一時的な不具合であり、次回までには……」
緑川が必死に弁明を口にする。
しかし、その時、会議室のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、あちらの企業のコンプライアンス担当役員と、今回のプロジェクト責任者。そして、彼らを先導するのは、常務の秘書として一礼する真白と、聖良だった。
「な、どうして……?」
青ざめる緑川に、聖良はタブレットを提示し、淀みのない美しい声で告げた。
「緑川様。本日、我が社のコンプライアンス委員会、および法務部より、御社に対して正式な抗議書が提出されました。こちらの書面は、その写しでございます」
「抗議書……? 何の、ことよ」
「本プロジェクトの遂行にあたり、緑川様が我が社の乾秘書に対し、複数回にわたって業務外での不適切な接触、および精神的な脅迫とも取れる発言を行った件についてです。該当するレセプション会場の防犯カメラ映像、および定例会でのやり取りの音声ログ、さらには目撃者の証言は、すべて証拠として御社の人事部へ提出されております」
聖良が突きつけたのは、逃げようのない完璧な「ログ」だった。
「嘘よ! 私はただ、蓮くんとプライベートな話を――」
緑川は救いを求めるように一課の席に座る神尾を見た。しかし、神尾は美咲を見ようともせず、冷徹な目を担当役員へと向けた。
「御社のコンプライアンス意識を疑わざるを得ません。私的な怨恨を仕事に持ち込み、我が社の役員秘書にまで不利益を被らせる人物がリーダーである限り、このプロジェクトの継続は困難であると判断します。担当者の即時交代を要求します」
「蓮くん……!?」
「公私の混同は慎めと言ったはずだ。緑川、お前とは二度と関わらない」
冷たい氷のような神尾の言葉が、緑川に引導を渡した。
「すべてこちらの管理不足です。乾秘書、そして神尾様、大変申し訳ありませんでした。緑川については、本日付でプロジェクトより解任し、社内規定に従って厳重に処分いたします」
あちらの責任者が深く頭を下げ、緑川を強引に会議室から連れ出していく。
会議室のドアが閉まった瞬間、真白はそっと胸を撫で下ろした。
自分の後ろにいる、心強い仲間たち。
そして何より、自分を最優先に守り抜いてくれた蓮の存在が、真白の心を温かく満たしていく。
会議が終わり、退出する役員たちを見送る中、蓮が真白の隣を通り過ぎる。
すれ違う一瞬、彼は周囲に気づかれない角度で、真白にだけ優しい、蕩けるような極上の笑みを浮かべた。
(真白。もう、君を脅かすものは誰もいない)
その視線だけで、言葉以上の熱い想いが真白に伝わってくる。
過去の亡霊を完全に断ち切った二人は、ここから誰にも邪魔されない、極上の甘い「これから」を紡いでいくのだった。