君と最後のメロディを
葬儀が終わって数日。

家の中は静かだった。

翠は自分の部屋で、碧唯と撮った写真を見つめていた。

笑い合った日。

初めて手をつないだ日。
夏祭りで撮った一枚。

どれも、宝物だった。

「……会いたい。」

その一言だけが、部屋に響く。

その時だった。

スマートフォンが震えた。

画面には、碧唯のお母さんからのメッセージ。

『翠くんへ。碧唯から預かっていたものがあります。今日、家に来られますか?』

翠はすぐに向かった。

⸻

碧唯の家。

お母さんは一つの小さな箱を差し出した。

「これは……。」

「碧唯が入院していた時にね。」

「『もし私に何かあったら、翠に渡して』って。」

翠は震える手で箱を開ける。

中には一つのUSBメモリーと、一枚の手紙。

手紙には震える字で短く書かれていた。

『翠へ。

一人で見ること。

泣いてもいいけど、最後は笑ってね。』

——碧唯

その夜。

翠は部屋でUSBをパソコンにつないだ。

動画が始まる。

画面には、病室で微笑む碧唯が映っていた。

少し痩せていたけれど、その笑顔はいつもの碧唯だった。

「……翠。」

画面越しに名前を呼ばれた瞬間。

翠の涙があふれる。

「これを見てるってことは……。」

「私はもう、翠の隣にはいないんだね。」

「ごめんね。」

「約束破っちゃった。」

碧唯は少しだけ笑う。

「でもね。」

「悲しい顔ばっかりしてたら、怒るから。」

翠は涙をぬぐいながら、小さく笑う。

「……無理だよ。」

画面の碧唯は続ける。

「翠。」

「ありがとう。」

「私の夢を、一緒に追いかけてくれて。」

「手が動かなくなった時。」

「『俺が碧唯の手になる』って言ってくれた。」

「歩けなくなった時。」

「『俺が足になる』って言ってくれた。」

「その言葉が、何度も私を救ってくれた。」

碧唯は一度、窓の外を見た。

そして、もう一度カメラへ微笑む。

「お願いがあるの。」

「私の曲を。」

「これからも、たくさんの人に届けて。」

「悲しい歌じゃなくて。」

「希望の歌として。」

「そしてね。」

少し照れたように笑う。

「いつか、翠に好きな人ができたら。」

「遠慮しないで幸せになってね。」

その瞬間。

翠は首を強く横に振った。

「そんなの……。」

「碧唯しかいないよ……。」

涙が止まらない。

画面の碧唯は、まるでその言葉が聞こえているかのように優しく笑った。

「最後に。」

「翠。」

「大好き。」

「世界で一番、大好き。」

「生まれ変わっても。」

「私はまた、翠を好きになります。」

碧唯は画面に向かって、小さく手を振る。

「じゃあね。」

「……ありがとう。」

動画はそこで終わった。

真っ暗になった画面に、涙でぐしゃぐしゃになった翠の姿が映る。

翠はスマートフォンを胸に抱きしめ、声をあげて泣いた。

「碧唯……。」

「俺も。」

「生まれ変わっても、絶対に君を見つける。」

部屋には静かな夜が訪れる。

けれど、碧唯の声は、翠の心の中でいつまでも優しく響き続けていた。
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