夏と冬が重なれば。
あの日、校庭のベンチで鮮烈な一目惚れをしてから、早いもので一年が経っていた。
高校一年生のときは、残念ながら冬弥と同じクラスになることはできなかった。
それでも、時々廊下ですれ違うたびに、咲夏の胸は弾むように躍ったものだ。
外見が変わってしまった自分とあの日の自分が同じだと、彼はもしかしたら気付いてないのかもしれない。
あの日の記憶はとうに忘れさられているのかもしれない。
そんな咲夏が、冬弥がバスケ部に所属していることを知ったのは、高校一年の秋のことだった。
きっかけは、仲良くなったばかりの知華から、昼休みにものすごい熱量で懇願されたことだった。
「咲夏ーーーっ!一生のお願いだから、お願いだから今日の昼休み、体育館についてきてぇぇ!!」
鼻息を荒くして必死にすがる知華の目的は、当時二年生だったバスケ部キャプテン、望月 朔先輩。
どうやら知華は、その朔先輩に惚の字らしいのだ。
「もう、しょうがないなぁ」
知華の勢いに圧倒され、仕方がなく連れ立って向かった昼休みの体育館。
そこで咲夏は、運命的な再会を果たすことになる。
朝凪高校のバスケ部は、校内でも有名なイケメン揃いの強豪チームだ。
ギャラリーには、彼らを目当てに集まった女子生徒たちのファンが早くも人だかりを作っていた。
「ほらっ、咲夏見て!朔先輩、今日も世界一かっこよくない!?」
「ふふ、うん!凄く素敵な先輩だね!」
隣で興奮を隠しきれない知華の姿にクスリと笑いながら、咲夏はなんとなくコートへと視線を走らせた。
その瞬間、咲夏の瞳は、オレンジ色のボールを鮮やかに操るひとりの男子へと吸い寄せられた。
高々とジャンプし、綺麗な放物線を描いてゴールネットを揺らすのは彼、――観月冬弥だった。
キュッとバッシュが床を鳴らす音と共に、着地した彼の前髪から、きらりと汗のしずくが飛び散った。
(うそ……観月くんって、バスケ部だったの……?!)
胸の奥が、ドクンと大きく震えたのを今でも鮮明に覚えている。
それ以来、咲夏は知華の「朔先輩の応援」に付き添うという名目で、昼休みの体育館へ冬弥の姿をチラリと見に行くのが日課になっていた。
今日もコートの中では、冬弥が爽やかにシュートを決めて、周囲の女子から黄色い歓声を浴びている。
(やっぱり、すごく人気なんだなぁ……。……でもさ、誰にも迷惑をかけずに、こうやって勝手に想っているだけなら、バチは当たらないよね……?)
眩しすぎる彼を見つめながら、咲夏の胸の奥には、少しだけ切ないもやもやが広がっていく。
けれど、ふと隣を見れば、知華はそんな咲夏の葛藤なんて露知らず、必死に手を振って朔先輩を応援していた。
その横顔は、紛れもなく恋する乙女そのもので、なんだかとてもキラキラとしていて可愛かった。
(いいなぁ……知華は)
咲夏は小さく、誰にも気づかれないように息を吐く。
(私も……知華みたいに、あんな風に素直に、観月くんのことを全力で応援できたらいいのにな)
完璧なギャルの鎧をまとっても、すぐにどうしても臆病な元・陰キャの自分が顔を出してしまう。