夏と冬が重なれば。
その日の放課後。
咲夏は心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張感に包まれながら、体育館のコンクリート壁にひっそりと身を潜めていた。
視線の先、少し離れた体育館裏のデッドスペースには、落ち着かない様子で足元を見つめる知華の姿がある。
やがて、部活のジャージを着た男子生徒が、軽やかな足取りでこちらへ歩いてくるのが見えた。
(あ、朔先輩……!)
知華が恋焦がれるバスケ部キャプテン、望月朔先輩だ。
すらりと高い身長に、清潔感のある黒い短髪。
にっこりと笑うと、すべてを包み込んでくれそうな包容力にあふれた、まさに「優しいお兄さん」を体現したような人物だった。
後輩からも先輩からも、もちろん女子生徒からも絶大な人気を誇る理由が、その佇まいだけでよく分かる。
(知華って、なんだかお兄さんみたいな人がタイプなんだなぁ~)
親友の意外な好みに内心でワクワクしながら、咲夏は壁の陰から息を殺して見守った。
「待たせてごめんね!ええと、お話って何かな?」
朔先輩は知華の正面に立つと、どこまでも穏やかな笑みを向けた。
その優しすぎる声に、咲夏は自分のことのようにゴクリと生唾を飲み込む。
(きゃー! 知華、がんばって……っ!)
心の中でペンライトを振り回す勢いでエールを送る。
知華はいつもより少しだけ顔を赤く染めながら、ぎゅっと拳を握りしめて一生懸命に言葉を紡ぎ出した。
「あの!急に呼び出してしまって、すみませんっ……! 私、1年の深瀬知華っていいます!実は、――」
知華が勇気を振り絞り、歴史的な一歩を踏み出した、まさにその瞬間だった。
ザッ、ザッ、と砂利を踏みしめる足音が、咲夏のすぐ後ろから聞こえてきた。
驚いて振り返るよりも早く、頭上から少し低めの、けれどあの忘れもしない爽やかな声が、鼓膜を優しく震わせる。
「あれ? もしかして……安達、さん?」 ドクン、と心臓が大きな音を立てた。
恐る恐る顔を上げると、そこには部活のタオルを首にかけた冬弥が、不思議そうに目を丸くしてこちらを見下ろしていた。