冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
恭司が美桜に声をかけてくる。
「俺よりも美桜の方が親父とは仲が良さそうだな」
「恭司さんに似てますよね」
「俺に? 似てないだろう? あんな陽気な表情しない」
「そうですか? 昨日今日は嬉しそうですよ」
「そうか?」
「ええ、最初に出会った時はそんな感じでした」
――今にして思えば、実母が亡くなったばかりで、恭司としても空元気だったのかもしれない。
「俺の母親、どうやら小さい頃に俺を見に新宮本家のイベントに乗じて現れたことがあったらしくてな。その時に、どうやら小さな女の子に会って絵本をプレゼントしたらしい。俺の母親としては、俺に渡したかったらしいけれど渡せなかったらしい」
譲之助の読み通り、恭司は恩師が実母だと気づいていたようだ。
「ドイツの古城が描かれている絵本だ。母親としては自分がドイツに渡る話を遠回しに息子の俺に伝えたかったみたいだが、勇気が出なかったみたいでな。黒猫みたいな女の子に渡したって話していたんだ」
「そうだったんですね」
「だが、ちゃんと俺にはその絵本の内容は届いていたんだ。お前のおかげだよ、美桜」
恭司が黒曜石のような瞳を和らげながら美桜のことを見つめてきていた。
「その絵本って、もしかして……」
けれども、恭司は何も答えなかった。
「母親が嫌がったから看取らせてはもらえなかったが、最後に会った時にこう言ってたんだ」
「何て、ですか?」
「『どうか、奇跡が起きて、小さい頃のあの女の子みたいな、ありのままの貴方のことを愛してくれる女性と巡り合えますように』ってな」
そうして、恭司が少しだけ寂しそうに呟いた。
だけど、慈しむような眼差しを美桜に送ってくる。
「母さんが……俺の元に連れてきてくれたのかもな」
そうして、コートの胸ポケットから黒い箱を取り出した。
中に入っているのは――大小二つの銀の結婚指輪だ。
「ダイヤモンドの婚約指輪ももらったばかりなのに……!」
「指輪よりも首輪が良かったかもな。あんた、すぐにフラフラどっかに行くし」
「いきませんよ。恭司さんに出会ってから自由になったんです。恭司さんの性格が移ったんですよ」
「俺もあんたに会ってから、少しだけ平和主義になれたよ」
お互いに顔を見合わせる。
黒猫ミオが腕をすり抜け、地面に降り立った。
そうして、美桜がそっと自身の下腹に手をやった。
「まだ実感が湧きませんが、来年の今頃にはもう一人家族が増えていますね」
「幸せな家族とやらになれるように善処する」
「恭司さんは私のことも会社のことも大事にできる人だから絶対大丈夫です」
「人を大事にする組織や人に人は集まるってやつだな」
「む? 小難しい話になりましたが、それです?」
「ハハッ、あんたはやっぱり面白いな。上に立つ奴らなら知ってることを、自分の経験で分かってるんだからな」
恭司が蕩けるような笑みを浮かべながら、美桜の下腹の手に自身の手をそっと宛がった。
まだ胎動はないけれど、お腹の赤ん坊も両親に喜んでもらえて、嬉しそうな気がする。
冷たい風が頬に触れてくるけれども、触れ合った手から互いの熱が伝わってきて、ぽかぽか温かい。
「恭司さん、私はもう幸せですけれど、もっと可愛がって、幸せにしてくださいね」
「ああ、俺があんたを愛せたように、子どものことも愛してみせるよ。美桜」
恭司と美桜の唇がそっと重なり合った。
飾り付けられてキラキラと輝く木の下、黒猫ミオに見守られる中、美桜と恭司は永遠の愛と幸せな家族になる約束を誓いあったのだった。
(本編終わり)

