冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

 美桜が心配になるぐらい恐ろしい声調だった。
 恭司は、社長室の机の前に戻ってきて電話の子機を置くと、サラリとした黒髪をかき上げた。

「本当に厄介だな」

 難波が恭司に声をかける。

「どうした、何かあったのか?」

「いや。いつものやつだ」

「ああ、見合い話か?」

 ドキン。
 美桜の心臓が跳ね上がる。

(見合い話……?)

 ドキドキした美桜だったが……。

「難波、社員の前で余計な話をするな。お前の悪い癖だ」

「ああ、悪い悪い」

 恭司本人が遮ったので、結局お見合い話がどうなのかはっきり分からなかった。

(お見合い話が出てるんだ。結婚適齢期だし、仕方がないよね)

 恭司の家柄については知らないが、華々しい経歴や実績などを鑑みても、結婚したいと考える女性は多いだろう。

(きっと綺麗で頭が良くてしっかりした女性と結婚するんだろうな)

 恭司と似合う女性はきっとそんな人だ。

「梅田美桜だったな」
 
 突然、恭司から名を呼ばれたため、美桜は背筋をただした。
 仕事モードの彼の冷淡な態度にはいつまで経っても慣れない。
 普段の気さくな雰囲気はどこかに行ってしまい、ものすごく冷たい人のように感じてしまう。

「君を呼び出したのは、他でもない。以前勤めていた会社について話を聞かせてもらいたいからだ」

 恭司が切り出した話に対して、美桜は心臓がドキンと跳ね上がる。

「君が以前勤めていた会社だが、新宮グループの子会社だっただろう?」

「はい、その通りです」

 美桜ははっきりと答えた。
 嘘を吐いたところで一緒だ。そもそも以前働いていた場所など、履歴書に書いてあったから誤魔化したところで意味がない。

「興信所を使って調べさせてもらった。君の父親も新宮グループ系列の会社社員だ。しかも役職に就いている」

「はい、仰る通りです」

 父の勤め先まで調べ上げられているなんて……。

(何なんだろう?)

 恭司が椅子から立ち上がる。
 こちらを見つめてくる。
 ドクン。
 嫌な鼓動が襲ってくる。

「まさか、父が連絡してきた、とかではないですよね?」

 実は新しい就職先を両親には伝えていない。
 親元から離れて自由になりたかったからだ。
 以前の会社では、別会社に勤めている父がしきりに会社に電話してきて、美桜がちゃんと仕事しているかどうか、しきりに確認してきていた。
 勝手に退職してきと、今頃怒っているかもしれない。

「違う」

 恭司が不機嫌そうな態度で答えると、美桜は萎縮してしまった。

「どうして我が社で働こうと思った?」

「それは求人広告を見て良い会社だと思ったからで……」

 採用面接の時よりもドキドキして喉がカラカラになった。
 難波が大声を出した。

「恭司、言い方がきつすぎる」

「口を挟むな。事実を確認しているだけだ。ここから先は俺だけで良い。下がれ」

 恭司がピシャリと遮ると、難波は少しだけ口惜しげな表情で退室した。そうして、美桜の目の前まで歩いてくる。
 恭司が何を考えているのか分からない。
 怒っているようにも見えて、美桜がドキドキ俯いていると……。

「顔を上げろ」

 命じられるがまま、顔を上げると。

「……っ」

 恭司の手が美桜の顎にかかる。
 頬に柔らかなものが触れた。
 ――恭司の唇だ。
 そっと離れた後、彼の手が伸びてきて、美桜はぎゅっと抱き寄せられてしまった。

「悪い。脅かすつもりはなかったんだ」

 突然の出来事に動揺が隠せない。

「あ、あの、お仕事中です。公私混同するつもりはないんじゃ……?」

「ん……? もう定時の時間は過ぎてるから良いんじゃないか?」

 先ほどまでとは打って変わって、恭司が飄々と軽口を叩いてきた。
< 76 / 179 >

この作品をシェア

pagetop