ボーイフレンドデニムに赤い唇
離婚して欲しい
「話がある。」
そうケイジに言われてキリコは何の話か見当もついてない。
来客でもあるのかな?
なんて軽く考えていたキリコに少し緊張した声でケイジの話はあまりに重すぎた。
「離婚して欲しい。」
「え?」
「子供が出来たんだ。
キリコには悪いが、俺たちの間にずっと子供が出来なかったのに、皮肉なもんだよな。」
「は?子供が出来たって?誰に?」
「俺に」
「いやいや、身籠ってる人は誰?」
「あー、まあそういう相手がいて…」
キリコは薄々気づいてはいたけど、これはあまりにもショックだった。
「キリコはもう俺のこと好きじゃないってわかってたから。」
「え?私が悪いの?」
「浮気するにはそれなりに理由がある。
悪いとは思ってるから慰謝料はちゃんと払うよ。」
あんまりだ…そう思ってキリコはケイジの話を遮るようにテーブルを思わず叩いた。
「わかった。離婚する。
ケイジにはわかんないだろうけど私だって子供欲しかったし、ケイジのことちゃんと好きだったよ。
でももうダメだってこともわかってた。」
「お前、子供欲しかったって言うけどずっと俺のこと避けてたよな?
触られるのも嫌なのかと思った。」
そんなこと考えてなかった。
ただキリコは自分の体調が良くない時に迫られて一度断ってからケイジの気持ちが冷めたのを感じていた。
「それで悪いけど早めに出ていってもらえるかな?」
「え?彼女とここに住むの?」
「いや、ここは売ってもっと広いところに越すつもりだよ。
お前の慰謝料も払わないといけないしな。」
その冷たい心ない言い方がキリコの胸を抉る。
そうだ、ケイジはこういう人だとキリコは腹を括る。
「わかった。部屋が決まったらすぐ出ていくから。」
それから一週間後、キリコは離婚届に判を捺してケイジと暮らした家を出た。
家電やら何やら生活に必要なものはケイジが譲ってくれて当面生活出来るくらいのお金も支払ってくれた。
ケイジは小さい会社だけどそれなりにいい暮らしをさせてもらっていた。
キリコが外で働くのを嫌がってまるで籠の鳥みたいに家に縛られていたキリコにとって夢みたいに自由だった。
深夜まで映画を観たり、友達の店に飲みに行って夜明かししたりしばらくは楽しく暮らしていたが、部屋に戻ると現実に引き戻される。
社会に10年も出たことのないキリコがこれから外に出て仕事を見つけて働かなければならないということはかなりの覚悟が必要だった。
何のスキルもなければ手に職がある訳でもない。
まずは少し家から離れたのスーパーで働いてみたが、近代化されたシステムは覚えることが多すぎて失敗の連続だった。
キリコはその仕事から早々とクビ同然で自主退職するハメになった。
キリコは友人のアズミに何かと相談していたがアズミの答えは決まって「ここで働かない?」というお気楽な返事だった。
アズミはキリコの家の近くで有名ななかなか立派なバーをパトロンから任されていた。
「いや、水商売は向いてないと思うんだよね。」
「何?もしかして偏見持ってる?
男相手にお酒の相手するなんで社長夫人だったキリコには出来ないってか?」
「そうじゃなくて…私、そんなにお酒飲めないじゃん?」
「いやいや、アンタね、表で働けると思ってる?」
「え?」
「35過ぎて愛想もない可愛げの無い女がうちの店で働けると思ってんの?」
「え?じゃあ…」
「裏方よ!皿洗って、おつまみ作ってもらいたいの。
先月おばちゃんが腰痛めて辞めちゃって大変なのよ。
だから手伝ってくれると嬉しい。」
「あ、そうなんだ。」
「だから着飾る必要もないし、表には立たせないからお酒飲む必要もないし、気軽に来てくれたらいいから。
まぁ表に出る子みたいにそんないいお給料は出せないけどね。」
キリコにとっては願ったり叶ったりの仕事でとりあえず夜はアズミの店で裏方のバイトを始めた。
「ねぇ、おばちゃん、なんか食べるもの作って。」
常連らしいその男は、厨房を平気で除いて直接注文してきた。
それにしてもおばちゃんて…とキリコは思いながら笑顔で振り返った。
「あ、はい。何がいいですか?」
その常連客はキリコの顔を見て慌ててアズミに視線を送る。
「あれ?ごめん、おばちゃん今日居ないの?」
アズミは笑いながら常連客にキリコを紹介した。
「あー、前の人腰痛めて辞めちゃって、この子が後任の私の友達、キリコ、この子に手伝ってもらってる。
料理うまいから安心して。」
常連客はキリコをじーっと観た後、口を開いた。
「そっかぁ、おばちゃんの作る飯、好きだったんだけど辞めちゃったんかぁ。
あ、じゃあキリコさん、オムライス出来る?」
「はい、出来ますよ。ちょっとお待ちくださいね。」
しばらくしてキリコがオムライスを作ってアズミに渡す。
「はい、どうぞ。キリコ特製のオムライス。」
常連客は一口食べると目を見開いた。
「ヤベェ。うまっ!めちゃ美味しい。
キリコさんに伝えといて。うまいって。」
その時、アズミに何か直感のようなものが閃いた。
アズミはなかなか男女のことに長けている。
「そういうのは直接言ってあげて。
キリコはずーっと褒めてもらえない人生だったから。」
その言葉が常連客に少し引っかかる。
褒められない人生って何だろうと。
「キリコ、ちょっと来て。
キョウヤがオムライス美味しかったって。
あ、この子、常連客のキョウヤ。
結構毎回、お腹減らして来るからこれからお世話してあげて。」
「あ、キリコです。ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をするキリコにキョウヤは
「カタいな。」
そう言って笑った
その笑顔が何とも爽やかで、キリコは肩の力が一瞬で抜けるようだった。
それからもキリコは時々このキョウヤにご飯を作った。
そのうちリクエストを受けて食材を用意するようになった。
「キリコさんは料理こんな美味いのに料理出すところで働かないの?」
「あー調理師免許も持ってないし、ただの料理好きってだけだから。」
「良かったらいい店、紹介するから働いてみない?
ランチしかやってない店だからここと掛け持ちで出来ると思う。」
思いもかけない誘いでキリコは戸惑ったが、仕事を選べる立場でもない。
何しろ好きな料理の仕事なら出来るかもしれないと思った。
次の日、キリコはキョウヤと待ち合わせてその店に向かった。
小さな洋食屋でお店には70代くらいの店主が一人で忙しなく仕事していた。
「おじちゃん、助っ人連れてきたよ。」
「おーキョウヤ、ありがとう。早速見つけてくれて。」
「この人が話したキリコさん、夜はアズちゃんのお店で働いてるんだけど、オムライス絶品でさ。
おじちゃんのところでちょっと修行したらいい戦力になると思って。」
素敵な小さなお店だけどなかなか繁盛してるし、70代の店主が一人で切り盛りするのは大変だろうとキリコは思った。
「実はおばちゃんとやってたんだけど…先月おばちゃんが急に亡くなっちゃって…今一人なんだ。
なんでおじちゃんの手伝いが出来る人探してたの。」
「キリコさん…キリちゃんでいいか?
よろしくね。」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
キョウヤに紹介された店で働くのはとても楽しかった。
店主の料理は美味しくて勉強になるし、丁寧に作っているので営業時間が短くても仕込みにはかなりの時間がかかった。
キリコは仕込みもできる限り手伝って店主と仲良く楽しく料理することになった。
「キリちゃんはスジがいい。
ここで2年以上働いて調理師免許取ってちゃんと調理師として頑張ってみたらいいよ。」
キリコもそうしたいと思っていた。
「はい、頑張ってみます。よろしくお願いします。」
不思議なことにキョウヤは毎日のようにこの店に食事に来ていた。
昼はここでゆっくりして夜はアズミの店で飲んでる姿しか見ていない。
キリコはそんなキョウヤを毎日見ているうちにキョウヤの生活に興味が湧いてきた。
「お仕事何してるの?この近く?」
「まぁね。」
何も聞いてもいつもかわされてばかりでキョウヤのことについてキリコは未だ何も知らない。
「キョウヤくんて自由人だよね。
もしかして働いてないの?
あ、インフルエンサーとか?
動画配信者とかそういうの?」
「いやいや、そういうのは苦手です。
ま、俺のことはどーでもいいでしょ?
そんな興味ある?」
「うん。あまりにも働いてないから何してるのかなーって気になっちゃって。
あ、株とかやってる人?
なんて言うんだっけ?と、トレー…?何だっけ?」
「トレーダー?
そんな知識もないです。
ちゃんと空いてる時間でお仕事してますから。」
「そうなんだ。」
納得はしてなかったけど教えてもらえない空気を感じてキリコは早々と話題を変えた。
「彼女とか居ないの?結婚は…してないよねぇ?」
「何の面接だよ。
彼女居ません。結婚もしてないです。
何?そんなに俺に興味あるの?」
「いや、カッコいいのに勿体無いなぁと思って。
いつもTシャツとデニムだから社会人じゃないと思ってるけどね。
それに、私キョウヤくんにすごく良くしてもらってるのに何も知らないなって思って。」
「キリコさんは結婚してないの?子供は?」
「あー、バツイチで…離婚したばっかりで仕事してなかったから社会復帰するの大変でさ。
子供はいません。だから捨てられたのかな?」
少し戸惑った顔で自分の過去をしゃべるキリコを見てキョウヤは居た堪れなくなった。
「ごめん、そんなこと話さなくて大丈夫。
そのキリコさんが色々聞くから…お返し…したって言うか…ごめん。」
「あー、いいよ。私は聞かれても気にしないから。
捨てられたのは事実だけど別れたことは後悔してない。
今のがずーっと生きてるって感じするし、楽しいもの!
それに離婚してなかったらこのお店にもキョウヤくんにも逢えなかったじゃない。」
「キリコさんで思ってるよりずっと強いよね。」
「強くなきゃ生きていけないからね。」
「そっか。カッコいいね。」
そんな話をしていたら、店主に呼ばれた。
「キリちゃん、そろそろ上がっていいよ。」
「はーい。シェフ、今日もありがとうございました。」
そうケイジに言われてキリコは何の話か見当もついてない。
来客でもあるのかな?
なんて軽く考えていたキリコに少し緊張した声でケイジの話はあまりに重すぎた。
「離婚して欲しい。」
「え?」
「子供が出来たんだ。
キリコには悪いが、俺たちの間にずっと子供が出来なかったのに、皮肉なもんだよな。」
「は?子供が出来たって?誰に?」
「俺に」
「いやいや、身籠ってる人は誰?」
「あー、まあそういう相手がいて…」
キリコは薄々気づいてはいたけど、これはあまりにもショックだった。
「キリコはもう俺のこと好きじゃないってわかってたから。」
「え?私が悪いの?」
「浮気するにはそれなりに理由がある。
悪いとは思ってるから慰謝料はちゃんと払うよ。」
あんまりだ…そう思ってキリコはケイジの話を遮るようにテーブルを思わず叩いた。
「わかった。離婚する。
ケイジにはわかんないだろうけど私だって子供欲しかったし、ケイジのことちゃんと好きだったよ。
でももうダメだってこともわかってた。」
「お前、子供欲しかったって言うけどずっと俺のこと避けてたよな?
触られるのも嫌なのかと思った。」
そんなこと考えてなかった。
ただキリコは自分の体調が良くない時に迫られて一度断ってからケイジの気持ちが冷めたのを感じていた。
「それで悪いけど早めに出ていってもらえるかな?」
「え?彼女とここに住むの?」
「いや、ここは売ってもっと広いところに越すつもりだよ。
お前の慰謝料も払わないといけないしな。」
その冷たい心ない言い方がキリコの胸を抉る。
そうだ、ケイジはこういう人だとキリコは腹を括る。
「わかった。部屋が決まったらすぐ出ていくから。」
それから一週間後、キリコは離婚届に判を捺してケイジと暮らした家を出た。
家電やら何やら生活に必要なものはケイジが譲ってくれて当面生活出来るくらいのお金も支払ってくれた。
ケイジは小さい会社だけどそれなりにいい暮らしをさせてもらっていた。
キリコが外で働くのを嫌がってまるで籠の鳥みたいに家に縛られていたキリコにとって夢みたいに自由だった。
深夜まで映画を観たり、友達の店に飲みに行って夜明かししたりしばらくは楽しく暮らしていたが、部屋に戻ると現実に引き戻される。
社会に10年も出たことのないキリコがこれから外に出て仕事を見つけて働かなければならないということはかなりの覚悟が必要だった。
何のスキルもなければ手に職がある訳でもない。
まずは少し家から離れたのスーパーで働いてみたが、近代化されたシステムは覚えることが多すぎて失敗の連続だった。
キリコはその仕事から早々とクビ同然で自主退職するハメになった。
キリコは友人のアズミに何かと相談していたがアズミの答えは決まって「ここで働かない?」というお気楽な返事だった。
アズミはキリコの家の近くで有名ななかなか立派なバーをパトロンから任されていた。
「いや、水商売は向いてないと思うんだよね。」
「何?もしかして偏見持ってる?
男相手にお酒の相手するなんで社長夫人だったキリコには出来ないってか?」
「そうじゃなくて…私、そんなにお酒飲めないじゃん?」
「いやいや、アンタね、表で働けると思ってる?」
「え?」
「35過ぎて愛想もない可愛げの無い女がうちの店で働けると思ってんの?」
「え?じゃあ…」
「裏方よ!皿洗って、おつまみ作ってもらいたいの。
先月おばちゃんが腰痛めて辞めちゃって大変なのよ。
だから手伝ってくれると嬉しい。」
「あ、そうなんだ。」
「だから着飾る必要もないし、表には立たせないからお酒飲む必要もないし、気軽に来てくれたらいいから。
まぁ表に出る子みたいにそんないいお給料は出せないけどね。」
キリコにとっては願ったり叶ったりの仕事でとりあえず夜はアズミの店で裏方のバイトを始めた。
「ねぇ、おばちゃん、なんか食べるもの作って。」
常連らしいその男は、厨房を平気で除いて直接注文してきた。
それにしてもおばちゃんて…とキリコは思いながら笑顔で振り返った。
「あ、はい。何がいいですか?」
その常連客はキリコの顔を見て慌ててアズミに視線を送る。
「あれ?ごめん、おばちゃん今日居ないの?」
アズミは笑いながら常連客にキリコを紹介した。
「あー、前の人腰痛めて辞めちゃって、この子が後任の私の友達、キリコ、この子に手伝ってもらってる。
料理うまいから安心して。」
常連客はキリコをじーっと観た後、口を開いた。
「そっかぁ、おばちゃんの作る飯、好きだったんだけど辞めちゃったんかぁ。
あ、じゃあキリコさん、オムライス出来る?」
「はい、出来ますよ。ちょっとお待ちくださいね。」
しばらくしてキリコがオムライスを作ってアズミに渡す。
「はい、どうぞ。キリコ特製のオムライス。」
常連客は一口食べると目を見開いた。
「ヤベェ。うまっ!めちゃ美味しい。
キリコさんに伝えといて。うまいって。」
その時、アズミに何か直感のようなものが閃いた。
アズミはなかなか男女のことに長けている。
「そういうのは直接言ってあげて。
キリコはずーっと褒めてもらえない人生だったから。」
その言葉が常連客に少し引っかかる。
褒められない人生って何だろうと。
「キリコ、ちょっと来て。
キョウヤがオムライス美味しかったって。
あ、この子、常連客のキョウヤ。
結構毎回、お腹減らして来るからこれからお世話してあげて。」
「あ、キリコです。ありがとうございます。
よろしくお願いします。」
深々とお辞儀をするキリコにキョウヤは
「カタいな。」
そう言って笑った
その笑顔が何とも爽やかで、キリコは肩の力が一瞬で抜けるようだった。
それからもキリコは時々このキョウヤにご飯を作った。
そのうちリクエストを受けて食材を用意するようになった。
「キリコさんは料理こんな美味いのに料理出すところで働かないの?」
「あー調理師免許も持ってないし、ただの料理好きってだけだから。」
「良かったらいい店、紹介するから働いてみない?
ランチしかやってない店だからここと掛け持ちで出来ると思う。」
思いもかけない誘いでキリコは戸惑ったが、仕事を選べる立場でもない。
何しろ好きな料理の仕事なら出来るかもしれないと思った。
次の日、キリコはキョウヤと待ち合わせてその店に向かった。
小さな洋食屋でお店には70代くらいの店主が一人で忙しなく仕事していた。
「おじちゃん、助っ人連れてきたよ。」
「おーキョウヤ、ありがとう。早速見つけてくれて。」
「この人が話したキリコさん、夜はアズちゃんのお店で働いてるんだけど、オムライス絶品でさ。
おじちゃんのところでちょっと修行したらいい戦力になると思って。」
素敵な小さなお店だけどなかなか繁盛してるし、70代の店主が一人で切り盛りするのは大変だろうとキリコは思った。
「実はおばちゃんとやってたんだけど…先月おばちゃんが急に亡くなっちゃって…今一人なんだ。
なんでおじちゃんの手伝いが出来る人探してたの。」
「キリコさん…キリちゃんでいいか?
よろしくね。」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。」
キョウヤに紹介された店で働くのはとても楽しかった。
店主の料理は美味しくて勉強になるし、丁寧に作っているので営業時間が短くても仕込みにはかなりの時間がかかった。
キリコは仕込みもできる限り手伝って店主と仲良く楽しく料理することになった。
「キリちゃんはスジがいい。
ここで2年以上働いて調理師免許取ってちゃんと調理師として頑張ってみたらいいよ。」
キリコもそうしたいと思っていた。
「はい、頑張ってみます。よろしくお願いします。」
不思議なことにキョウヤは毎日のようにこの店に食事に来ていた。
昼はここでゆっくりして夜はアズミの店で飲んでる姿しか見ていない。
キリコはそんなキョウヤを毎日見ているうちにキョウヤの生活に興味が湧いてきた。
「お仕事何してるの?この近く?」
「まぁね。」
何も聞いてもいつもかわされてばかりでキョウヤのことについてキリコは未だ何も知らない。
「キョウヤくんて自由人だよね。
もしかして働いてないの?
あ、インフルエンサーとか?
動画配信者とかそういうの?」
「いやいや、そういうのは苦手です。
ま、俺のことはどーでもいいでしょ?
そんな興味ある?」
「うん。あまりにも働いてないから何してるのかなーって気になっちゃって。
あ、株とかやってる人?
なんて言うんだっけ?と、トレー…?何だっけ?」
「トレーダー?
そんな知識もないです。
ちゃんと空いてる時間でお仕事してますから。」
「そうなんだ。」
納得はしてなかったけど教えてもらえない空気を感じてキリコは早々と話題を変えた。
「彼女とか居ないの?結婚は…してないよねぇ?」
「何の面接だよ。
彼女居ません。結婚もしてないです。
何?そんなに俺に興味あるの?」
「いや、カッコいいのに勿体無いなぁと思って。
いつもTシャツとデニムだから社会人じゃないと思ってるけどね。
それに、私キョウヤくんにすごく良くしてもらってるのに何も知らないなって思って。」
「キリコさんは結婚してないの?子供は?」
「あー、バツイチで…離婚したばっかりで仕事してなかったから社会復帰するの大変でさ。
子供はいません。だから捨てられたのかな?」
少し戸惑った顔で自分の過去をしゃべるキリコを見てキョウヤは居た堪れなくなった。
「ごめん、そんなこと話さなくて大丈夫。
そのキリコさんが色々聞くから…お返し…したって言うか…ごめん。」
「あー、いいよ。私は聞かれても気にしないから。
捨てられたのは事実だけど別れたことは後悔してない。
今のがずーっと生きてるって感じするし、楽しいもの!
それに離婚してなかったらこのお店にもキョウヤくんにも逢えなかったじゃない。」
「キリコさんで思ってるよりずっと強いよね。」
「強くなきゃ生きていけないからね。」
「そっか。カッコいいね。」
そんな話をしていたら、店主に呼ばれた。
「キリちゃん、そろそろ上がっていいよ。」
「はーい。シェフ、今日もありがとうございました。」


