女除霊師の密かごと
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一日を終えて女子寮に帰った私は、制服を脱ぎ、スウェットに着替える。
ローテーブルの下に隠しておいた買いだめのカップラーメンを取り出して、ポットの湯を注ごうとした時、スマートフォンが震えた。
画面に表示された番号は知らないものだった。
私は湯を注ぎかけていたポットを止め、嫌な予感がしながらも通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『おう、久しぶりやな。ゆみたん』
耳に飛び込んできたのは、懐かしくてうざったい、関西弁の男の声だった。
京都の本家にいる私の――兄だ。
ずっとブロックしていたはずなのに、まさか別の端末から連絡してくるとは。嫌すぎる。
「……急に何? 大した用事がないなら切るけど」
『つめたぁ。もっと優しぃしてよ。俺、唯一無二のゆみたんのおにいちゃんやんかぁ』
「三秒以内に本題に入って」
『はいはい、俺なあ――』
そこで一拍置いて、兄はふっと笑ったような声を漏らした。
『今年の霊冥の文化祭、行くから』
「……は?」
突拍子のない一言にさっきまでの驚きも吹っ飛ぶ。
スマホを握る手に力が入った。
『心配せんでも行くんは俺だけ。親父とか家の奴らは行けへん。ゆみたんに嫌われとるん知っとるし』
「なのに何でお兄ちゃんは来るわけ?」
『いちおう霊冥、俺の母校やで? 懐かしい先生方にも挨拶したいし。あと……あんだけ除霊師目指すん嫌がっとったのに、無理やり霊冥に入れられてもうたゆみたんの顔もたまには見たなってな! ぎゃはは! 傑作や!』
「…………」
私は言葉を失ったままスマホを見つめた。
私の兄――真中清光は、霊冥高等学校を卒業後立派な本家の跡継ぎとなり、メディアでも活躍中の大人気除霊師だ。
そんな奴が学校に来たら、一気に注目を浴びるに決まっている。
「来ても知らない人のふりするから」
『ええ!? ほんまに言うとる? さすがにそれはひどいんちゃう――』
ブツッ。
私は通話を切り、兄の新しい電話番号を着信拒否した。
気を取り直してポットの取っ手に手をかけお湯を注ごうとした、まさにその時。
ピンポーンと、部屋のインターホンが甲高く鳴った。
今度は何だ。
私の部屋を訪ねてくるような人物はそういない。何故なら私には友達がいないからだ。しかも今日は文化祭準備の疲れもあって、みんな早めに自室に戻っているはず。
警戒しつつ、ドアスコープを覗く。
「……は?」
そこにいたのは、スーパーのロゴ入りレジ袋を両手に提げた山本博士だった。
どう見ても完全に買い物帰りだ。
私は混乱しながらドアを開けた。
「どうしたの……?」
「こんばんは。夕飯、まだですよね」
少しだけ得意げな色をにじませながら、山本博士はレジ袋の中身を掲げて見せた。袋からはネギや豆腐、肉のパックがちらりと覗いている。
「今日は文化祭準備で忙しくて、お昼を一緒に食べられなかったでしょう? 真中さんの栄養が偏っているのではないかと思いまして」
オカンか……!!