初愛


どれくらいそうしてたんだろう。
ふっと時計を見ると、もう夕方だ。
「あ、初音が帰ってくる⋯」
ご飯の準備しなくちゃ
あ、買い物行ってない
洗濯物も干しっぱなし

「ただいまー!⋯って、なにこれ!?」
帰ってきた娘は目をまんまるくした。
メイク道具は散らかしっぱなし、洗濯は干しっぱなし⋯
「あ、初音おかえり。ごめん。お母さん、ちょっと体調悪くて⋯」
「え!?大丈夫!?いいよ、いいよ!私作る!お母さんは、寝てて?ちょっと頑張りすぎてるんだよ!ね?お父さんもそう思うでしょ?」
初音は、そう言って窓際に飾ってある写真に笑いかけた。
初音は、いい子だ。
いつまでも、父親の存在を忘れることはない。
「ありがとう。じゃあ、何か出前でも取ろうか?たまには」
もう、高校生だと言うのに、初音は目を輝かせながら
「ほんと!?何にする!?」
とまるで子どものように私の腕に絡みつく。

久しぶりにピザを頼んだ。
出前のピザなんて、高くて何年も食べてなかった。
熱々で、持ち上げるとたっぷりのチーズがトローっと垂れてくる。

「ねぇ⋯明日からしばらく広島に帰ってもいいかな?」
私の突然の申し出に、初音は少しぬるくなったコーラで急いで口の中のピザを流し込み、目をまるくして
「広島って⋯おばあちゃんの所?なんで?」
と聞いてきた。
「⋯うん、実はね⋯お母さんの高校の頃の友達が亡くなってね、明日お通夜で、明後日がお葬式なんだ。大切な友達だったから、最後に顔⋯見たくて」
初音に伝えながら、内心ドキドキしていた。
娘に昔の恋人だと気付かれるのはなんだか気恥ずかしい。
「そっか⋯うん、分かった。大丈夫!私、もう16だよ?心配しないで!でも、身体は?大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。ありがとう。食べよ?冷めたら、美味しくなくなっちゃう。」

久しぶりのピザは、今まで食べたピザの中で、一番重かった。

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