初恋が君に届くまで
「つむぎ? 返事を聞かせてくれる? 俺とつき合ってほしい」

つむぎはうつむくと小さく首を振った。

「ごめんなさい。あなたとはおつき合いできません」

丈はハッとする。

「どうして? 俺のことが嫌いか? それともほかに好きな人がいるの?」
「そうじゃないけど、あの、私、おつき合いの仕方とか習ったこともないし、デートしたこともないからやり方がわからなくて……」
「俺も習ってないから大丈夫だ」
「だけどどうしても無理なの。考えるだけで恥ずかしくて……」

今度は首をひねった。

「恥ずかしい? って、なにが?」
「綾瀬くんと二人でいるのが。食事の時も、パスタを上手にくるくるできなかったらどうしようとか、ラーメンはチュルッてスープが飛んだらどうしようとか。髪に寝癖がついたままだったら顔も上げられないし、車の中で二人きりだとドキドキしてなにを話せばいいかわからないし」
「そんなの、俺にとっては全部可愛い」
「でも私は恥ずかしいし、緊張するの」
「いや、ここで応援団の演舞をやる方が恥ずかしくないか?」

つむぎは頬を真っ赤にしたかと思うと丈の胸に顔をうずめ、ギュッと抱きついた。

「やってから言わないで!」
「ごめん、でも可愛かった。今もすごく可愛い。だからつむぎ、なにも心配しないで俺とつき合って」

つむぎは丈の胸におでこをつけたまま、首を振る。

「つむぎ?」
「無理だよ。だって心臓がバクバクして、もちそうにないもん。綾瀬くんに手を握られた時も、心拍数120くらいあったよ」

その割には今自分から抱きついているが……。

「大丈夫だ。今日だってここまで車で二人きりで来ただろ?」
「だって誘拐される気分だったから。逆らえば長いハチマキ巻いて学ラン着た綾瀬くんに絞め上げられそうで……」
「いやそれは、応援団長の出で立ちだ」
「押忍! って、迫力あるよね、綾瀬くんの声」
「いやだから、それは応援団長の時で……」

やれやれとため息をついてから、丈はつむぎの顔を覗き込む。

「つむぎ? 顔上げて?」

おずおずと視線を上げたつむぎは、目が合うとボッと顔を真っ赤にして再びゴツンとおでこを丈の胸にぶつけた。

「いてっ! つむぎ?」
「やっぱり恥ずかしくて、どうしても無理なの」
「わかったよ」

丈は優しくつむぎの頭をなでる。

「じゃあ、つき合うとかデートするとかは考えなくていい。仕事の延長でメッセージのやり取りしたり、ランチしながら打ち合わせしたり、だと平気か?」
「それはまあ、お仕事なら」
「わかった、そうしよう」
「そうしようって?」
「だから食事しながら打ち合わせ。早速ランチミーティングしようか」

丈はつむぎの手を取ると、ショッピングモールに向かって歩き出す。

「オープンテラスのカフェで、最近のフィラートのアクセス解析をしましょう」
「あ、はい。よろしくお願いします」

なるほど、これならいいのかと丈はほくそ笑む。

今はまだ恋人だと認識されなくても、つむぎと一緒にいられるだけでいい。

(少しずつ時間をかけて、俺に惚れさせてみせる。やっと再会できたんだ。そう簡単に諦めてたまるか)

丈は想いを伝えるように、つむぎの手をキュッと握った。
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