初恋が君に届くまで
季節はすっかり秋へと移り変わり、11月の丈の誕生日が近づいてきた。

「綾瀬くんへのお誕生日プレゼント、どうしようかなぁ」

丈のマンションで夕食を食べたあと、お酒を飲みながら例のごとくつむぎのひとり言が始まった。

「初めてのプレゼントだもん、喜んでもらいたいな。内緒でこっそり用意しようっと。なにがいいかなぁ?」

ここは聞かない方がいいのか?
いやでも、可愛くてつい聞いてしまう。

「んー、ケーキは手作りにしよう。生クリームよりちょっとビターな方がいいよね。綾瀬くん、チーズケーキが好きだから、コーヒー風味のレアチーズケーキはどうかな?」

なんだそれは、すごいじゃないか!
そんなの美味しいに決まっている。
しかもつむぎの手作りだぞ?
楽しみすぎる!

「あとはお料理も。クリームサーモンのパイ包み焼きとか、ビーフストロガノフにしようかなー?」

誰だ、その強そうな名前の男は。
たとえ誰でもつむぎは絶対に渡さないぞ。

「肝心のプレゼントは、うーん……思いつかないな。男の人に贈り物なんてしたことないし、その、初めての彼氏だもんね。えへへ」

可愛い。
その笑顔がプライスレス。

「友ちゃんにも相談してみよう。あ、そう言えば……」

そう言えば?
なに、どうした?

「友ちゃん、ランジェリーショップに連れて行ってくれるって言ってたな。どうしよう」

ラララ、ランジェリー!?

丈は思わず手にしたグラスを落っことしそうになった。

「可愛いのを選んであげるから、綾瀬くんのおうちに置いておけって言われたけど……。そんなの、考えただけで恥ずかしくて」

つむぎはうつむいて困ったように呟く。

「綾瀬くんのことは大好き。でもね、まだ心の準備が……。事の流れも勉強中だし」

事? それは、その……夜の?

「パジャマのボタンは外してもらえばいいの? 手はどこに置いておけばいいのかな。気をつけの姿勢? バンザイは変よね」

手? そんなの、どこでも。
え、言われてみればどうしてたっけ?

「身体を見られるんだよね。やだ、もう絶対無理だよ。目隠ししてもらおうかな」

それはまた、別のプレイでは?

「きっとさ、綾瀬くんにがっかりされちゃうよね。色気もないし、作法も全然わかってないなって。どこかで練習しておこうかな……」

いかん! そんなの、絶対にいかん!
そのままのつむぎでいてくれ。
がっかりなんてする訳がない!

(むしろ嬉しい。俺がつむぎの初めてだなんて)

丈はグラスをテーブルに置くと、後ろからつむぎをギュッと抱きしめた。

「つむぎ、好きだ」
「え?」

頬をピンクに染めたつむぎが、ゆっくりと振り返る。

潤んだ瞳で見つめられ、丈はつむぎの唇を奪うようにキスをした。

いつもの触れるだけのキスではない。
気持ちをぶつけるように、何度も深く口づけた。

「ん……っ、綾瀬く……」

つむぎは時折吐息をもらし、その妖艶さに丈の頭はクラクラする。

耳元に口づけ、首筋に手を触れた時だった。
つむぎの身体がビクッとこわばり、丈はハッと我に返る。

「つむぎ……ごめん。大丈夫か?」
「大丈夫。あの、ちょっと驚いちゃっただけで、綾瀬くんのこと嫌な訳じゃないの。ごめんなさい」

小さくうつむくつむぎに、丈はようやく冷静さを取り戻す。

ポンとつむぎの頭に手を置き、その顔を覗き込んだ。

「ごめんな、驚かせて。俺もつむぎが大好きだ。大切にするからなにも心配しないで」
「うん、ありがとう。あのね」
「なに?」
「えっと、綾瀬くんにキスされると、すごく嬉しいの」

丈は驚いて目を見開く。

いつもならそんなことを言わないつむぎだが、酔っているからだろう。

またもや理性を失いそうになるが、つむぎを怖がらせることは決してするなと心にブレーキをかけた。

「俺もつむぎとこうすると、すごく幸せだよ」

そう言って優しく抱きしめ、チュッと軽くキスをする。

つむぎは幸せそうな笑みを浮かべた。

「そろそろ寝ようか、つむぎ」
「そうだね、明日もお仕事だもん。じゃあもうお部屋に行くね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、綾瀬くん」

腕を解くとつむぎは立ち上がり、ゲストルームへと向かう。

パタンとドアが閉まると、丈は大きく息を吐いた。

(同じベッドに入れば、絶対に抑え切れない)

つむぎを片時も離したくないと思う一方で、少し距離を置かなければと自分に言い聞かせた。
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