虐げられ雨女の令嬢は、隣国の晴れ男の陛下に溺愛される

第15話 温泉宿の宴

 日が暮れて夜になると、宿の大部屋を貸し切っての夕食となる。そこにはシャイン、レイニル、ヘリオス、ローサの4人が集う。
 個室から移動する時間が近付くが、レイニルはソファに座って背中を埋めたままの放心状態が続いている。

「レイニル、夕食を食べに行くぞ!」

 温泉を出てから、シャインの元気と笑顔の光度はあきらかに増している。心も体も満たされたシャインは、残すは腹を満たすのみ。

「どうした? のぼせたのか?」
「はい……おかげで」

 レイニルは体も顔も熱を持ちすぎて意識が朦朧とする。体内に刻まれたシャインの熱は時間が経っても一向に冷める気配がない。
 シャインと同化して自分も晴れ女になってしまったのではないかと思うほどに……心も体も熱い。

(これって、シャインとの勝負に勝ったの? 負けたの?)

 契約結婚の内容は、30日以内に雨が降ったらレイニルの勝ち、シャインを愛したらレイニルの負け。
 体を許して重ねる行為が愛したという事なのか、レイニルはまだ愛を理解していない。しかしシャインは勝負の件を口にしないので違うのかもしれない。
 それに、あの時の小雨もすぐに止んでしまったので、おそらく地面も濡れていない程度。シャインに言っても信じてもらえなさそうだった。

「ふっ……可愛いな、オレのレイニルは。後でちゃんとベッドで抱いてやるから安心しろ」
「元気すぎます……」

 もう色々と考える気力もなくツッコミにも力が入らない。晴れ男と交わった今、本当に雨は降るのだろうかという不安もある。
 シャインは雨を降らせたいから雨女と体を重ねた……レイニルはそう受け止めていた。

(シャインの期待に応えなきゃ……大丈夫、きっとまた雨は降る)

 シャインに必要とされたいと願うレイニルの心の熱さは冷めないが、体の熱さに紛れてそれが愛だという自覚がない。
 だから、雨を降らせて離婚を阻止する方法しかシャインを繫ぎ止める方法を思いつかない。
 レイニルは『雨女』である自分にしか価値を見出せなかった。



 宴会場の大広間では長テーブルにシャインとレイニルが並んで座り、向かい側にヘリオスとローサが並んで座る。
 海鮮料理などの豪華な料理にレイニルは目を輝かせるが、もっと気になるのはシャインが手に持っているワイングラスだった。

「シャインはお酒を飲むのですか?」
「あぁ。オレは酒に強いぞ。レイニルも飲むか?」
「私は18歳なので……」

 城ではシャインが酒を飲むイメージはなかったが、酔わないから気付かなかっただけで実は飲んでいたのかもしれない。
 18歳のレイニルから見て、22歳のシャインは大人なのだと改めて思ってしまう。
 ふと正面の席を見ると、いつの間にかローサの姿がない。ヘリオスが一人で黙々と食事をしている。

「あの、ヘリオス様。お姉様は、どちらに……?」
「あぁ、だるいから部屋に戻るってよ。たぶん温泉に浸かりすぎて、のぼせたんだぜ」

 それを聞いたレイニルは、ヘリオスとローサの二人も温泉の中で甘い時間を過ごしたのだと勝手に想像した。
 世間を知らないレイニルは、温泉とは愛し合う場所なのだと思い込んでしまった。……シャインのせいで。

(お二人の仲は良好で良かったです)

 レイニルは、ヘリオスとローサの仲が上手くいっているのだと勘違いして嬉しくなった。
 自分の事は置いといて気持ちが盛り上がったレイニルは、隣のシャインに笑顔で話しかける。

「ふふ、お姉さまたちはラブラブのようですよ。一緒に来て良かったですね」
「あぁ~? 何言ってやがるぅ、オレたちもラブラブだろぉ~がぁ~レイニルぅ」
「え……?」

 レイニルはシャインの様子がおかしい事に気付いて固まる。呂律は回っていないし、目も半開きで据わっている。
 ……そして顔が赤い。これは、どう見ても悪酔いしている。

「シャイン、お酒に強かったのでは……」
「強ぇぞ~、でもぉ今日の酒は、もっと強ぇぞ~」

 普段の威厳の欠片もない口調で、シャインは別人格になっていた。普段と違いすぎる謎のキャラでちょっと怖い。
 身の危険を感じたレイニルは、少し身を引きながら正面のヘリオスに目を合わせて助けを求める。
 するとすぐにヘリオスは席を立って、レイニル達のいるテーブルの向かい側まで回ってきた。

「兄貴、レイニルちゃんが怖がってるぞ。部屋に戻って少し酔いを覚ませ」
「ん? あぁ~ヘリオスぅ~すまんなぁ~」

 ヘリオスに肩を担がれて、シャインはフラフラとした足取りで一緒に部屋を出て行く。レイニルは、弱点のなさそうなシャインの意外な一面を見て驚いた。
 結局、宴会場のテーブルにはレイニルだけが取り残されて、一人寂しく食事を続ける事となった。

 シャインはヘリオスに引きずられるようにして廊下を歩く。向かう先はシャインとレイニルの宿泊部屋ではない。
 これこそがヘリオスの企みだった。シャインは確かに酒に強いが、そんな彼を酔わせるためにアルコール度数の高い酒にすり替えていた。
 シャインを部屋まで送り届けると、ヘリオスはドアの外から笑顔で手を振る。

「じゃあな、兄貴。ベッドで少し休んだ方がいいぜ」

 ヘリオスが立ち去ると、シャインはそのままフラフラとベッドの方へと歩く。
 勢いのままベッドに倒れこもうと思ったが……ベッドの上に誰かいる。

(ん……レイニル……?)

 ベッドの上に座っているのは、金色の長い髪にブルーの瞳。下着同然の白いネグリジェを着ている。
 酒酔いしているシャインにはレイニルに見えたが、彼女はローサ。元から二人は双子のように似ている姉妹。
 しかし今のシャインは見間違えるというレベルではなく、完全にローサをレイニルだと思い込んでしまっている。

「……お待ちしておりました」

 ローサはまるで夜伽のように、ベッドの上で正座をしながら丁寧にお辞儀をした。ヘリオスが言うに、シャインを落とすなら酒に酔っている時が一番らしい。
 酒の力であっても、気の迷いであっても構わない。シャインと一線を越えてしまえばレイニルを離婚に追い込める。

「……オレを待ってたのか……可愛いな……」

 レイニルに誘われたと勘違いしたシャインは、その妄想のままにベッドの上のローサに手を伸ばす。
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