因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 負傷しているアーサーは思うように加勢できず、長期戦になればレミアルはロイアルに押されてしまう。

「なるほどね、レミ姉はアーサー殿に惚れてるんだ。あんなクソ弱い奴のどこがいいのかね?」
「……黙れ! 侮辱するな!」

 体力の限界にきているレミアルは肩を大きく上下させて呼吸を荒げている。対してロイアルは息切れしていない。実力の差は歴然だった。
 ロイアルは何かを考えて剣を引いた。それでもその余裕の構えから隙は全く見えない。

「レミ姉、ウィリアム国に戻ってきなよ。今はオレが将軍だからカイン様に進言してあげるよ」
「なん……だと……」
「弟としての情けだよ。でも、そうだなぁ、条件としては……」

 ロイアルはレミアルに顔を向けたままでアーサーに刃先を向ける。方向を指し示すような仕草で。

「あいつの首を取れ。そうすれば帰国を認めてあげるよ」
「…………!」

 レミアルは恐る恐るアーサーの方を見るが、彼は肯定も否定もせずに無表情でいる。
 このままロイアルと戦えば二人とも命を落とす。だからと言ってアーサーは命を譲る気なんてない。
 そう、アーサーは戦バカ。魂までもが軍人なのだ。アーサーは剣を両手で握るとロイアルに向かっていく。

「あぁ、バカだねぇ。そんなにオレに殺されたいんだ」

 ロイアルの剣の切っ先が煌めくと、瞬時にアーサーの胸を目掛けて放たれる。その動きは確実にアーサーの剣よりも速い。
 それを見たレミアルの瞳に遠い前世の記憶の映像が映し出される。まさに今、目の前で起きているシーンが前世の映像と重なる。

(私は、前世も今も……アーサー殿を……)

 前世のレミアルとアーサーは敵将どうしでありながら愛し合った。しかし戦いの中で、自軍の攻撃からアーサーを庇う形でレミアルは死んだ。
 そして今、二人が生まれ変わっても歴史は同じ運命を繰り返す。

「レミ姉……!?」

 ロイアルの瞳が見開かれる。アーサーを仕留めたと思っていた剣先は、自分とそっくりな容姿の姉・レミアルの胸を突き刺していた。
 それは前世と同じ光景。レミアルはアーサーを守ろうとして自分の体を盾にした。

「レミアルッ!!」

 アーサーは手から剣を離すと、自分に向かって倒れてくるレミアルの背中を抱き止める。この時、アーサー脳裏にも前世のシーンが蘇った。
 二人一緒に床に座り込みながらも、しっかりとレミアルの背中を抱きながらアーサーは呼びかける。

「レミアル! 愚か者め! お前はいつも、そうやって私のために命を投げ捨てる!」

 それは怒声というよりは悲痛な叫び。常にクールなアーサーが戦の最中に感情的になるなんて、レミアルにとっては驚きよりも嬉しい。
 その怒りの中に愛を感じ取ったレミアルは、薄れゆく意識の中でも微笑んだ。

「アーサー殿、愛してる……何度生まれ変わっても、私はあなたを守る」

 それは、何度生まれ変わっても結ばれる事がない悲恋の運命さえも受け入れる、レミアルの愛と覚悟と強さ。
 軍人であるアーサー、そしてレミアル自身も胸の出血量を見て分かる。止血や治療で助かる傷ではないという事が。
 二人の前に呆然と立つロイアルの手から剣が滑り落ちる。レミアルを突いた剣は地面の上を跳ね、その刃先に滴る血が弾け飛ぶ。

「なんで、だよ……レミ姉……」

 ロイアルはレミアルを慕っていた。そんな姉に致命傷を負わせた罪悪感よりも、レミアルがそこまで愛したアーサーが憎いと思う。
 やる気のなさや無関心は愛の裏返し。結局はロイアルの行動理念も今のエリーゼと同じく『嫉妬』だった。
< 60 / 67 >

この作品をシェア

pagetop