因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 同時に愛の口付けを交わすエリーゼとアゼル、セレンとカイン。その時、今まで交わる事のなかった姉妹の心が同じ願いとなって重なる。

(もう、こんな戦いは終わらせましょう)

 エリーゼとセレンの心の声が重なると、二人の体が黄金の光に包まれる。
 最強の聖女の名に相応しい聖力は、ドーム状に大きさを増して周囲で見守る両軍の兵士たちを包み込み、レミアルとアーサーのいる場所にまで広がる。
 レミアルの上半身を抱き起こしているアーサーは突然、温かい光に包まれた事に驚いて上空を見上げる。

「なんだ……この光は? エリーゼ様の力か?」

 アーサーはその時、負傷しているはずの自分の体の痛みが消えている事に気付いた。これは紛れもなく聖女の『治癒』の能力だった。
 視線を下ろして腕に抱いているレミアルを見ると、胸の傷は塞がって出血も止まっている。それどころか血痕さえ綺麗に消え去っている。

「アーサー殿? 私は……これは……?」

 レミアルはブラウンの瞳をいっぱいに開いてアーサーの顔を、そして黄金色に染まった空を見上げる。
 エリーゼとセレンの心が重なる事によって発動した聖女の能力、それは『浄化』と『治癒』が融合した奇跡の力。
 癒されたのは体だけではない。心までもが穏やかになって、戦場の兵士たちの心さえも真っ白に洗い流す。

「我々は、なんで戦っていたのだろう……?」

 兵士たちは口を揃えて呟くと自らの意思で武器を下ろした。エリーゼとセレンの願いが光となって戦場に立つ者の身も心にも降り注ぐ。
 やがて光が空気に浸透するように消えていくと、周囲に争いの音はなく静まり返っている。それは戦の終わりを告げる静寂だった。
 気付くと上半身を起こしたレミアルの肩をアーサーが抱いていて、二人は寄り添いながら空を見上げていた。

「レミアル、ありがとう。私は前世からお前に守られてばかりだ」
「……当然だ。私はあなたに愛と忠誠を誓ったのだから」

 アーサーは立ち上がるとレミアルに片手を伸ばして差し出す。その目は軍人ではなく、愛しい人に手を差し伸べる一人の男性だった。

「立てるか?」

 レミアルが頬を赤らめながら手を取って立ち上がると、次の瞬間に突進するように抱きついてきたのはロイアルだった。

「レミ姉~!! よかったぁ!!」
「う、わっ?」

 ロイアルの勢いに押されたレミアルはバランスを崩して後ろに倒れそうになる。相変わらず空気を読まない男だ。
 何よりも驚いたのは、ロイアルはなぜか泣いていた。これにはアーサーも引いてしまう。

「オレ、寂しかったんだよ! レミ姉がいなくなって、あんな奴に取られたと思って!」
「……ロイアル。お前は子供だな。私は国を裏切っても、お前を裏切ったりはしない」

 レミアルはロイアルの頭を優しく撫でながらあやす。これでも20歳と19歳の姉弟である。
 実はロイアルはレミアルを溺愛していた。『隠れ戦バカ』で『隠れシスコン』のロイアルは癖が強すぎる。
 その癖の強さもあるが、ロイアルは姉を立てるために一歩引いて、ずっと副将軍の位置に甘んじていた。

 エリーゼとアゼル、セレンとカイン、レミアルとアーサー、レミアルとロイアル。
 全ての愛が繋がった時に生まれた奇跡の力が、混沌とした戦いを終結させた。
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