因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~
 口付けの最中にエリーゼは両手の手の平をアゼルの胸板に重ねて当てる。驚いたアゼルが唇を解放して自分の胸元を見て確認する。

「貴様……何をした?」
「ふふ。今、アゼルに溺愛の呪いをかけたわ」
「溺愛の呪い……だと!?」
「そう。これで、あんたは私の愛の奴隷。私に服従するしかないのよ」

 これは嘘で、エリーゼは呪いなんて使えない。それどころか、嫉妬が消えてからは再び聖女の能力が使えなくなってしまった。
 それでもエリーゼは、これだけでアゼルが自分に服従すると確信している。

(甘いわね、アゼル。あなたは私に勝てない。なぜなら、あなたはバカだから)

 心で勝ち誇って胸を張るエリーゼだが、全裸だという事を忘れている。
 案の定、信じきっているアゼルは慌てて上半身を起こすと、自分の逞しい胸に手を当てて動揺している。

「おぉぉ……胸が熱い、体が熱いぞ……これが呪いの効果なのか……!?」

(そうよアゼル、それでいいのよ。それでこそバカよ)

 ほくそ笑むエリーゼの思惑通り、アゼルは呪いにかかったという自己暗示で勝手に溺愛モードを増幅させている。
 しかもアゼルは未だにエリーゼが最強の聖女だと思い込んでいるので、その能力を少しも疑わない。

「そう。私の溺愛の呪いは決して解けないのよ。さぁアゼル、私に服従するのよ」

 アゼルを服従させてしまえば世界征服を阻止する事なんて簡単だ。前世ではアゼルに服従していた立場から、今世では立場逆転を狙う。
 これで全てが思い通りに行くはず……だった。

「エリーゼ、愛してる、愛してるぞぉぉ!! 我慢できん、抱いてやるぞぉぉ!!」
「え、え、きゃああっ!?」

 アゼルは再びエリーゼの元へとダイブすると、あっという間にシーツの上で組み伏せてしまった。
 ギラギラと鈍く光るアゼルの悪魔の瞳を見上げてエリーゼは後悔する。

(バカは私だった! 溺愛の呪いじゃなくて服従の呪いにすべきだった!!)

 時すでに遅し。ただでさえハードモードなアゼルの溺愛を増幅させてしまって、結果的には自滅した。
 しかもエリーゼ自身の溺愛の呪いの効果も相まって、心も身体も素直に悦んでしまっているのが悲しい。

(あぁ、ダメよ……でも嬉しい、愛しい、幸せ……)

 ひとときの幸せと引き換えに、今日は確実に腰が立たなくなる事を覚悟した。


 1時間後、二人はようやく着替えて部屋の外に出る。しかしエリーゼの足取りは不安定で真っ直ぐに歩けない。

「クク……腰が立たないエリーゼも可愛いな。また夜に抱いてやるぞ、嬉しいだろう」
「う、嬉しくなんか、ないんだから……」
「本当は?」

(ぐぅぅ……誰が『嬉しい』なんて言ってやるもんですか……!)

 廊下を少し進んだところで、前方の壁側に見えるドアが開いてアーサーとレミアルが一緒に出てきた。
 それに気付いたエリーゼとアゼルは同時に足を止めて息を潜める。
 アーサーは普段通りの黒い軍服で、レミアルも普段通りのメイド服。廊下を歩く二人の後ろ姿は肩が触れそうなほどに距離が近い。

「え? あそこの部屋って……」
「アーサーの部屋だな。そうか、あいつらもか」

 前世からの恋人であったアーサーとレミアルは、今世でようやく結ばれたのであった。
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