恋を知らないきみへ
「……あー、うん、分かるよ。同期の……名前なんだっけ」

「マーケ部の木ノ下くん」

「あ!そうだ!木ノ下!木ノ下丞(たすく)だ!」

「へぇー、そういう名前なんだ」

ガヤガヤしている人たちには混ざらず、一人で隅っこで食事をとっている木ノ下くんは、私と午前中に話した時と同じ。

低温の空気感をまとっていた。

……あの人、どこでもいつでもあんな感じなんだな。
と、これまで関わったことのないタイプの人だと実感する。


「どうしてほのかが木ノ下と?接点あったっけか?」

「ううん。新ブランドの立ち上げの下地作りを部長に頼まれて、木ノ下くんと組まされた」

桃果は不思議そうだったけど、私の答えを聞いてあからさまに顔を歪める。

「……うっわぁ、大変そう」

「資料作りのためのアンケートとかね」

「入社研修以来、木ノ下とはしゃべったこともないかも」

「……だよね」


私も、その程度の認識だった。午前中までは。


木ノ下くんがなにを食べていたのかは遠すぎて分からないが、彼はさっさと食べ終えてトレーを返却口へ戻すと、足早に食堂から出ていった。

誰かと一緒にご飯を食べることもなく、すれ違う同僚に声をかけたり、声をかけられたりすることもなく。

ただ食事だけをして、去っていく。

その姿を、なんとなく見ていた。


「ほのか、どしたー?」

「……いや、なんでもない」


気にしないふりをして、私は残りのランチをまた食べ始めた。




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