監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない
 私を見下ろすバルドゥールは、金色の瞳に酷薄の笑みを浮かべて口を開いた。

「今すぐ誰の元にも行かないと誓え」

 厚顔無恥なその物言いに、一瞬、呆気にとられてしまった。

 戯言も大概にして欲しい。誰が誓うものか。これぐらい何ともない、全然余裕だというふうに鼻で笑ってみせる。

 その私の態度に、バルドゥールの眉がぴくりと撥ねた。……やり過ぎた。そう思ったけれど、今更引き返すわけにはいかない。私は彼に向かって、更に笑みを深くした。
 
「なら、これならどうだ?」

 強引に身体を掴まれ、うつ伏せにさせられる。自由になった私は、這うようにバルドゥールの元から逃げようとしたけれど、あっけなく腰を引かれ、すぐに引き戻される。

 そして犬のような姿勢を取らされたと思った途端、再び彼は行為を始めた。

 もうこれ以上進めないのに、それでもその奥を求め、何度も何度も突き上げてくる。それは苦痛という言葉では足りない程の辛さ。でも、シーツに顔を押し付けて、私は絶対に声を出すことはしない。

「こうまでして声一つあげないのか。強情な奴だ」

 忌ま忌ましそうに舌打ちをすると、バルドゥールの動きは激しさを増す。

 彼の動きに合わせて私の身体も揺さぶられるから、突き上げられる衝撃は息か止まりそうなほどだ。

 こんな動物の交尾のような行為を強いられて涙が滲むが、私はただただシーツを握りしめて耐え続ける。

「始めは苦しいが、すぐに慣れる」

 いけしゃあしゃあと、はったりをかましてくれる。

 こんな辛さ一生慣れるわけがない。初めてとはまた違う痛みに耐え切れず、シーツを握り締めていた手に力が籠る。そうすれば、包帯から血が滲み出し、再び傷が開いたことを知る。

 それで良いい。今の苦しみを誤魔化せるなら、傷の痛みの方がまだマシだ。けれど──

「手を握りしめるな」

 血の滲んでいる方の手首を掴まれ、反対の太い腕は私の脇に回される。ふわりと浮いたと思ったら、視界がくるりと変り背面にバルドゥールを感じた。

 彼は私を抱えた体位になっても、激しい動きは止まらない。私はもう限界だった。

「………お願い、やめて」
「辛いのか?」

 こくりと頷けば、バルドゥールは低く笑った。

 けれど、やめる素振りは一切ない。それどころか、彼は私と繋がっている部分に指を這わせると、そのまま私に指を見せつけた。

「辛いわけがない。ここはもう俺を受け入れている」

 彼の指は光っていた。それが何なのか、言葉にしなくても分かる。かっと頬が熱くなる。

 こんな禍々しいものなんて、見たくない。思わず顔を背けた私の顎を、バルドゥールは掬い取る。

「お前は気付いていないだけだ。すでに俺を受け入れ始めていることに。力を抜け。そして俺を感じろ。そうすれば楽になれる」

 耳たぶを舐め上げ、バルドゥールはくつくつと喉を鳴らしながら、私にそう囁いた。

 違う、そんなんじゃない。私は弾かれたように激しく頭を振った。

 何度もそうされれば、自分の意志とは関係なく身体は彼を受け入れようとする。でも、それは快楽の為ではない。ただの摩擦から身を護る行為でしかない。

 そんな私の主張を読んだかのように、彼は光る自分の指先をこれ見よがしに舐め上げる。

「こっちの方が甘いな」

 吐息交じりに耳元でそう囁かれ、身体が羞恥で熱くなる。

「……お願い。そんなことしないで」
「恥ずかしいのか?」

 やめて欲しい一心で素直に頷けば、バルドゥールは私の腰を勢い良く持ち上げ、ぱっと手を離した。

「や……ぁ……」

 真っすぐに落とされて、自分の意思とは関係なく弱々しい声が漏れてしまう。そして痛みの奥に何かが見え隠れしていることに気付くが、そちらに意識を向けてはいけないと本能が告げている。

 だから激しく頭を振って、後ろ手でバルドゥールを押しのけ彼の元から離れようとする。

「まだ認めたくないのか?なら、こうすれば良くわかる」

 バルドゥールが体位を変え、私に、覆いかぶさる。

「どうだ?痛みはないだろう?」

 バルドゥールの残酷な問い掛けに、唇を噛む。

 痛くはないなどと、頷けるわけがない。血が滲むほど唇を噛み締めた私に、バルドゥールはわざと強く動いた。

「っ……ん」

 呆気なく声を漏らした私に、バルドゥールは支配者だけが浮かべることができる笑みを浮かべた。

 早く終わって欲しい。唇を噛み締めて目を閉じ、それだけを祈る。

 そうして永遠とも思われる苦痛な時間は、彼の低い声で終わりとなった。

 身体中が不快で仕方がない。私はシーツに顔を押し付けて、バルドゥールがこの部屋から出ていくのをひたすら待つ。

「翼を奪われても、空を求めるのか」

 衣擦れの音と共に、意味の分からない言葉をバルドゥールは呟いた。

 それは私に向けての言葉ではなかったのだろう。すぐに足音が遠のき、扉が閉じられた。

 いつもの私、ならここで悔し涙を流すが、今日は泣いたりなんかしない。

 だってルークの言葉が本当なら、これが最後の凌辱のはずだ。もう二度とこんな思いはしなくて済む。

 私はことの最中にやめてと懇願してしまったけれど、彼の元に留まるとは言っていないから。
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