隠れドS系御曹司は一目惚れで結ばれた彼女を溺愛して逃さない
 幾種類もの樹木が立ち並ぶアプローチを抜けると、平屋の日本家屋が見えてきた。
 広大な敷地にはそぐわないこじんまりとした造り。
 以前の屋敷も本邸も知っている泰雅には小さく見える。 

 それでも一般の家屋から比べればかなりの広さで、使用している材質も最高級品だ。
 新築されてまだ十年にも満たない。
 まだ新しい色を保っている白木の引き戸を開ける。

 ここには本家の嫡男が住んでいた。

「羽琉矢。いるかー」

 気さくな調子で声をかけると、主を待たずにズカズカと家の中に入っていく。
 勝手知ったる体で真っ先にキッチンへと向かう。

「あれ? 鈴木さんはいないのか」

 誰もいないキッチンを見渡しながら、通いの家政婦の名を口にする。
 時々訪れる泰雅は、すっかり顔なじみになっていた。

 キッチンに入ると、いつものようにコーヒーの準備をする。

 手動式のミルを取り出して豆を挽く。

 手間暇はかかるが、これだけは誰にも譲れない。泰雅の趣味でもあり、楽しみの一つでもあった。
 自分好みの豆も置いている。

 ガリガリと豆を挽いて、お湯を沸かし、粉になった豆をドリップする。

 コーヒーの薫香が燻らせた煙のように、部屋の中をたゆたう。湯気が立ち上りコポコポと緩やかな音を立てて、コーヒーがサーバーへと落ちていく。

 その様子を泰雅はゆったりと眺めていた。セピア色のまったりとした至福の時間が流れていく。この瞬間が好きだった。

 カップにつぎわける頃に、ガチャリとドアが開いた。

 ここの主、綴木羽琉矢(つづきはるや)が顔を出したのだ。
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