王子様でいたいのに
  三浦千隼(みうらちはや)、元気な高校三年生。俺が『学校一の王子様』なんて言われ始めたのはいつからだっけ。遅くとも中学年の時には既に『王子様』を気取っていたと思う......それくらい周りが持て囃されていた。

 微笑みかければ、大抵の相手は言うことを聞いてくれるし、ちょっと人を手伝えば性格が良いとか。そんなだから、恋なんてもっと簡単なものだと思っていた。笑いかけて、話しかけて、好きって言って、ただそれだけ...

本当にそれだけ?そもそも、それが難しいんけど。

 「あっ」

 教室に入って来た渚沙と目が合った。と言うよりも俺が一方的に目を合わせているだけだった。

 黒川渚沙(くろかわなぎさ)
 俺のすっ、すき...s、気になっている人。幼稚園、小学校、中学校、高校と続いてきた幼馴染だ。きっと、いや、絶対に渚沙は俺に好かれていることを知らない。今だって友達と呑気に喋ってるし。

 あーあ、何で俺ってこんななんだろーな。もっと上手く立ち回れると思ってたのに。想定外すぎる。なんかダサいって言うか。何でもないふうに喋り掛ければ良いのに。話題が無けりゃ、会話の広げ方も分かんねーよ。







 「お前さー、本当に黒川のこと好きだよな」
 昼休みに屋上で同じクラスの友人、佐川(さがわ)津賀(つが)西木戸(にしきど)と飯を食っていると、いきなり佐川にそんなことを言われた。

 「は?」
 「は?じゃねーだろウケる。朝から見過ぎー」
 「自覚ないかもしれないけどマッジでわかりやすいよ」
 津賀と西木戸までそんなことを言う。そんなに分かりやすいか?適当喋ってんなよ。

 「な、え、何で?」
 言葉探してたら吃った。こういうとこー、おれ。
 「何でって何?好きっしょ?黒川のこと」
 津賀に詰められる。当たり前とでも言うような視線が痛い。
 「好きだけど...」
 「おー認めた」
 「アッツ、お前の好きな子とか初めて聞いたわ」
 「え、初恋?マジ?っつーか幼馴染じゃなかった?」

 「まあ黒川可愛いしなー」

 は?

 「いや分かる。絶対モテる、あれは」

 おい、ちょっ...

 「ってか今彼氏いないの?」

 「おい待て、ぇ何、俺のこと嫌いなのお前ら」
 「「「嫌いじゃないけどヘタれすぎてムカつく」」」

 えぇ〜...知るかそんなの...
 「何でそんなに好きって分かりやすいのに話しかけに行かんの?」
 「だって...今更話す話題ないし、多分あっちは俺のこと眼中にもない...」

 今日だってそう。目が合ったと思ったら何事もなかったかのように逸らされたし。いやそりゃそうなんだけど、普通なんだけど、俺だって他の子にはそうするし...

 やけにニヤニヤした顔で3人が見つめてくる。
 「...ぁんだよ。」
 「いやぁー?王子様でもそんなふうに悩むんだなーって」
 「それすぎる〜、正直面白いよ」
 「俺らが手伝ってあげよっか??」
 「いらない」

 そんなことは言っても特に行動できずに今に至る。物心つく前から一緒にいるのに、いまだにただの『幼馴染』だ。これは流石にヘタレすぎか...渚沙への好意を認識したのは小学校四年生のとき。今が高校三年生だから......8年間?8年間!?

 「いや、俺頑張るわ」
 「おっ?」
 「まじ?応援」
 「お前ならいけるって」

 急に優しくなった。こわ。とはいえ流石にこの幼馴染という関係に甘えすぎた。今はクラスも一緒だし、毎日登校するだけで顔を見られたけど、そんなんで満足できるほど甘くはないし。よし。

とはいえ何からすれば良いのか...うーーん...なんて考えていたら放課後になっていた。何してんのマジで。部活もしてねーし帰るか...

昼一緒だった三人はみんな部活やら彼女やらで忙しいらしい。人の少ない廊下をとぼとぼと歩いていると、階段の踊り場の曲がり角で女子生徒とぶつかった。

「うぉっ...!なっ、なぎさ!?」
「えっ、ちはやっ」

転びかける渚沙の手を引いて何とか踏みとどまった。

「...大丈夫?」
「うん大丈夫!ごめんー」

渚沙はそのまま慌てた様子で階段を上っていく。人気の少ない教室に戻るというのだろうか。せっかく会えたのに、渚沙が行ってしまう。

「どしたん?なんか忘れ物?」

半ば引き留めるように声をかけた。渚沙が振り返り、長い黒髪が揺れ動く。

「無くしもの!」
「俺も手伝う」
「えっ」

間髪入れずに答えてしまった。いわゆる即答。キモかったかも...

「本当ー!?ありがとう!」
「うん...」

何で純粋なんだ...かわいい...俺も渚沙の後を追って階段を上がる。

「で?何無くしちゃったわけ?」
「えっと...キーホルダーみたいな、ぬいぐるみのチャームみたいな」
「ふーん、どんな?」
「ねこ」

猫のぬいぐるみキーホルダー。

「最後に見たのはいつ?」
「帰りのHRの時はあったの。それでさっき歩いてたら無くなってて、だからここら辺に落ちてるかなって思ったの」
「そっか」

いつもよりも入念に地面を見る。教室につき、机やらロッカーやらを見て回る。

「ない...」

渚沙があちこち動き回って探している。無防備すぎる...

「あ、もしかしてこれ?」

黒板横のロッカーの上にちょこんと置いてあったそれを取った。誰かが拾って置いておいたのだろう。それにしても...何だか見覚えがあるある気がする。

「そう!それ!」

顔をかが泣かせた渚沙が駆け寄ってきた。彼女の手にぬいぐるみを納める。

「ありがとう...良かったぁ」
「どういたしまして」
「それ...どっかで見たことある」
「えぇ?」

渚沙が信じられないとでも言う顔でこちらを見ている。何で、変なこと言った?こわい。

「これ、千隼がくれたんだよ!小学校の時!」
「あれ...」
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