君を忘れるための春。

1.幼い記憶

新幹線の窓の外、めまぐるしく流れていく景色を眺めながら、私はまぶたを閉じた。
耳の奥で、まだ発車のベルが鳴り響いているような気がする。

目を閉じると、浮かんでくるのは決まって、あの優しくて温かいあの日々の記憶だ。



私と恭弥と凛は、生まれたときからの幼馴染。
同じマンションの同じ階に住んでいて、保育園のもも組のときから、ずっと三人で一緒に育ってきた。

二人はとにかく優しかった。
お姉さんみたいにしっかり者で大人びた凛と、面倒見がよくてみんなのリーダー的存在だった恭弥。
二人に比べて、私は子どもの頃からおっとりしていて、何をやらせても不器用だった。

だからいつも、二人は私の面倒を見るかのように、私を真ん中にして手を引いてくれた。

保育園の園庭で、私が派手に転んで膝を擦りむいたとき。
熱を出して、一人で教室の隅でうずくまっていたとき。

先生よりも誰よりも、いの一番に気づいて駆けつけてくれるのは、決まってあの二人だった。

「いと! 我慢しちゃだめだろ」

眉をひそめて、自分のことみたいに焦った顔で覗き込んでくる、小さな恭弥。

「いーと! しんどいの? 私がおんぶしたげる!」

小さな背中を精一杯丸めて、私の前にしゃがみ込んでくれる、優しい凛。

そのたびに、胸の奥がぽかぽかと温かくなって、涙なんてどこかへ吹き飛んでしまう。

「恭くん、凛ちゃん! ありがとう」

そう言って私が笑うと、二人はホッとしたように顔を見合わせて、私以上に嬉しそうに笑うのだった。

そんな、三人でいるのが当たり前だった日常のなかで。
私の心に、小さな、けれど消えない変化が訪れたのは、あるよく晴れた春の日のこと。

その日は、凛が珍しく風邪で保育園を休んでいた。

「……ん、できた」

一人で砂場に座り込み、小さなスコップで砂の山を作っていた私のもとに、影が落ちる。
見上げると、そこには恭弥が立っていた。

「友達と遊ばないのか?」

恭弥は、私が一人で寂しくしていると思ったのだろう。
他のお友達が元気に走り回る園庭を気にする風でもなく、私の前にすとん、としゃがみ込んだ。

頭上から降り注ぐ太陽の光を背負って、まるでお兄さんのような、安心する顔で私に話しかけてくる。

「恭くんは、みんなと遊ばないの?」
「俺は、糸が一人でいるから来たんだよ。ほら、一緒に山作ろうぜ」

恭弥はズボンの汚れなんて気にせずに、小さな手で砂を集め始めた。
いつもそうだ。恭弥はいつだって、私のことを一番に気にかけてくれる。

ずっと、胸の奥で気になっていたことが、ぽろりと口からこぼれ落ちた。

「なんで、いつも恭くんは、私のことを心配してくれるの?」

砂を握ったまま、恭弥の顔をじっと見つめる。
子どもながらに、ずっと知りたかった。どうして恭弥は、私にこんなにも優しいのだろう、と。



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