キミが家族になった、その日から。
近いけど、遠い距離
「…おはよう」
翌朝、階段を下りると、キッチンから焼きたてのトーストの香りが漂ってきた。
「おはよう、夏音。よく眠れた?」
継父が優しく笑う。
「……はい」
まだ”お父さん”とは呼べないし、この新しい家だって、まだどこかソワソワする。
そんな自分に少しだけ罪悪感を覚えながら、夏音はダイニングへ向かった。
テーブルには朝食が並んでいる。
その向かいには、制服姿の涼が静かにコーヒーを飲んでいた。
「お、おはよう…」
──勇気を出して声をかける。
しかし返ってきたのは、小さい頷きと“うん”だけ。
昨日と変わらない無表情だった。
やっぱり、感じ悪いしどこか鼻につく。
私は、昨夜の“好きになるな”という言葉を何度も頭を思い出していた。でもどんなに思い出しても、少し腹が立ち好きになることは無いと心に言い聞かせていた。
「そういえば二人とも同じ学校なんだから、一緒に行ったら?」
母の一言に、夏音も涼も同時に固まる。
「え…っ」
「…おばさん、それは…」
「あら、どうして?」
──私の隣で涼はため息をつく。
「学校では今まで通りでいい。家族になったことは、自分から言うつもりないから」
「う、うん…」
「余計な噂になるからな」
その言葉に、夏音も静かに頷いた。
確かに、同じクラスの人気者と突然兄妹になったと知れたら、学校中の話題になるな…。
「わかった」
「じゃあ、学校では他人で、家では家族」
涼は短く「うん」と答えた、たったそれだけだった。
そして夏音が家を出る8時。
──夏音は少し時間をずらして家を出た。
校門には友達の美優が立っている。
「夏音、おはよ!」
「美優、おはよう 」
教室へ入ると、女子たちの視線が一斉に教室の後ろへ向く。
「今日も柴崎くんかっこいい…」
「朝から目の保養」
教室どころか廊下までもが黄色い声に包まれていて。
夏音もつられて視線を向ける
窓際の一番後ろ…
イヤホンを片耳につけ、本を読んでいる涼。
家で見る姿と何も変わらないのに、学校ではどこか近寄りがたい雰囲気をまとっていた。
「本当に、人気なんだ…」
「え?なにが?」
「え、あ…いやなんでもない」
──ふと視線が合う。
しかし涼は何事もなかったように本へ目を戻した。
まるで、知らない人を見るように。
「ねえ、夏音?」
美優が肘でつつく。
「ん?」
「いま柴崎くん見てたでしょ?」
「えっ!? 見てない!」
「絶対見てたよ!」
「違うって!」
慌てる夏音を見て、美優は笑う。
「でもさ…あんなイケメン、気になるよね。」
夏音は苦笑いするしかなかった。
「……」
気になるもなにも、昨日からひとつ屋根の下なんだけどね。でも家では少し優しいんだよ、なんて、もちろんそんなことは言えない。