その婚約破棄、二言はございませんね?

冷徹令嬢にやきもちをやかせたい

 アニスはいつも冷静だ。その凜とした居住まいには、胸が高まる。

 でも、思ったんだ。

 アニスがやきもちを焼く姿を見てみたいと。


 前に僕が浮気をしている振りをしたら、アニスは僕のことをあっさりと切り捨てようとした。だから、ヤキモチをやかせることはたぶん不可能だ。


 いや、ちょっとまて?

 もしかしたら……この方法ならアニスでもヤキモチを焼くかもしれない。


 僕は従僕を呼び、メモを書いて渡した。

「この条件に合うものを手配してくれ」

「はい、かしこまりました」


***


 一ヶ月後、僕はアニスに手紙を書いた。

<週末に我が家でお茶会を開きます。大事な話がありますので是非いらっしゃって下さい。 ダニエルより>


 翌日、アニスからお茶会に参加するという返事を受け取った。

 断られなかったことにほっとしつつ、僕は口元に手を当て思いをはせる。

 さあ、僕の企みはうまくいくだろうか。


***


「本日はおまねきくださいましてありがとうございます」

 アニスが優雅にスカートの端を持ち軽く頭を下げた。

「来て下さって嬉しいです」

「他の方達は?」

「貴方しかお誘いしておりません」

「まあ」

 アニスはほんの少し首をかしげる。


「どうぞ」

 アニスの椅子を引き、腰掛けるように促す。

「ありがとうございます。大事な話があると伺ったのですが?」

 席に着いたアニスは、方眉を上げ僕の様子をうかがう。

「今呼びますから、お待ちください」

 従僕に合図をした。


 一度奥に下がった従僕が連れてきたのは、白くてふわふわで丸い子犬だった。

「まあ、可愛らしい!」

 アニスが手を伸ばすと子犬は小さく唸った。

「こら、パール」

 従僕が僕にパールを渡す。パールは僕の頬や口をペロペロとなめ短い尻尾をちぎれそうなほどふっている。


「……仲の良いこと」

 アニスが口元をハンカチで隠し、そっぽを向いた。

「ヤキモチですか?」

「まさか」

 そう言いつつ、アニスは僕と子犬に視線を戻した。


 僕は子犬を従僕に渡し、立ち上がった。

「僕にはアニスのほうが魅力的……」

 話している僕には目もくれず、アニスは子犬に駆け寄った。

「貴方、人見知りなの?」

「ウゥ」

「あら、怖かったかしら? ごめんなさいね」

 アニスはとろけそうな笑顔を浮かべている。

 

 僕は慌てて従僕から子犬を取り上げた。

「……子犬を見せびらかしたかったのね」 

 アニスが醒めた目で僕を見つめた。

「違う! そうじゃなくて……ヤキモチをやかせたくて」

「それなら作戦成功ね」

 アニスは冷笑を浮かべた。

 

「ヤキモチを焼く相手が違うじゃ無いか!」

 こんなはずじゃなかったのに……。


 僕の涙をパールが舐めた。
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