冷徹営業トップは私の限界オタクでした

第3話「冷徹営業トップがお迎えに来ました。 」

営業部へ一週間応援に行くことが決まった翌朝。
陽菜子は経理部の自分のデスクで、筆記用具や書類を小さな箱にまとめていた。

「春宮さん。」

経理部の入り口で陽菜子を呼ぶ声がした。
女性職員たちから、小さな黄色い歓声が上がった。

「あ、神崎さん。」

入り口には、優しい笑顔を陽菜子に向ける神崎が立っていた。
まさか営業トップの彼が、わざわざ経理部まで迎えに来てくれるとは思わなかった。

「お荷物、営業部までお持ちします。」
(名前を呼ばれた。朝から幸せすぎる。)

神崎は陽菜子の抱えている荷物へ、静かに手を差し伸べた。

(はぁ……今日も朝からかわいいッ!!今日から本当に、一週間一緒に働けるなんて…!俺は心臓が持つだろうか…。)

そんな神崎の心のうちを知らぬ陽菜子。

「ありがとうございます。助かります。」

神崎に、にこっと笑顔を向ける。
その瞬間、神崎の心臓は停止した。

(推しが俺に笑いかけてくださっている……。今日が命日でもいい。いや、ダメだ。これから一緒に働くんだ!俺が営業部の連中から守らなければならないんだッ! )



陽菜子に向けた優しい笑顔のまま、自分の胸を拳で叩く。
心臓が再起動。

「あの…?神崎さん大丈夫ですか?」

奇妙な行動をする神崎を見て、陽菜子は少し心配になった。昨日も遅くまで働いていたのだろうか。
経理部の人たちもざわざわする。

「…朝から、少し胸が詰まる感じがありまして。 」

「そうなんですか? お水、飲みます?」

「いえ。もう治りました。」
(優しい…。)

何事もなかったように、神崎はもう一度荷物へ手を伸ばした。

「あ、はい。よろしくお願いいたします。」

荷物の半分を神崎へ渡す。
その瞬間、陽菜子の手が神崎の指先に触れる。

「…っ…!!」
(ギャアアアアッ!!)

心の中で悲鳴を上げる神崎。

(推しが…陽菜子さんが、俺の手に触れたッ!!これは合法ですか?天国?それとも夢?…これは現実だ。そして会社だ。落ち着け俺…。)
「春宮さん。行きましょうか」

数秒停止したあと、神崎は何事もなかったように陽菜子に笑顔を向ける。
二人は営業部へと移動を始めた。
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