終わらない夜に



【あなたと社会をつなぎたい】。
そんな文言が書かれたポスターが壁に掲示されたオフィスを、今日も数名の社員たちがせわしなく行き交っている。

「山田さん、例の新規営業先からお電話です」
「おーい、14時から面談の人来てるから対応してー」

それぞれの役目をこなす社員たちははつらつとしており、社内の雰囲気はとてもいい。
そこへ外出から帰ってきた中年男性──上司である部長は笑顔で紙袋を手渡した。

「みんな今日も頑張ってるな。これお土産」
「部長!いいんですか?ありがとうございます」
「いやいや、みんなの評判の良さでこの新宿支社のレビューも高評価だって今日も本社で褒められたよ!……まぁ、ひとり陰気なやつもいるけどなぁ」

オフィスの一番端の席にいる私を見て鼻で笑った部長に、周囲の社員たちは「可哀想ですよー」と笑った。
私はそれを聞こえないふりをして、自分の仕事である経理書類の入力を続ける。

東京、西新宿にある人材派遣会社『TOWAスタッフ』。横浜に本社を持つこの会社は都内近郊の企業への人材派遣を扱っており、『自分に合う仕事が見つかる』『相談員が優しく丁寧』とそこそこ評判の良い会社だ。

私、藤咲(ふじさき)つぐみはそこで経理事務として働いて4年目になる。

制服の襟のボタンをきっちり上まで締め、染めたのことのない黒髪をひとつに束ねただけ。
メイクは薄くネイルもしていない24歳にしては洒落っ気のない外見は、年相応に華やかな身なりの人が多い社内では浮いているのだろう。

誰とも親しくなれず仕事以外の話はしない。それどころか上司や同僚から見下したように笑われることももう慣れた。

……働きに来てるだけだから、親しい相手なんていなくてもいいんだけどさ。

本音のような、少し強がりのような気持ちを心の中でつぶやくと、そのタイミングでデスクの上のスマートフォンが音を立てた。
繰り返す振動からそれがメッセージではなく着信だと察して画面を見ると、そこには【母】の文字が表示されている。

……またか。
そのたったひと文字に嫌悪感と呆れる気持ちを覚えながらも、出なければ余計面倒なことになるのも簡単に想像がつく。

私は鳴り続けるスマートフォンを手に席を立ち部屋を出ると、人のいない給湯室で電話に出た。

 
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