喪失の夜に、あなたがいた
けれど、
その“事実”は、
明莉の人生を壊すには十分すぎるほど鋭かった。

記者は息を呑み、ペンを走らせる。

「どうして……今、これを?」

玲奈は微笑んだ。
その笑みは、どこか壊れたガラスのように脆い。

「だって……
 誰も知らないままなんて、不公平でしょう?
 復帰した今だからこそ、
 “つぶしがいがある”んじゃなくて……
 ただ、事実が知られないままなのが嫌なだけ」

その声は優しいのに、
言っている内容は残酷だった。

「彼女は守られてばかり。
 誰かがいつも助けてくれる。
 そんな彼女が妬ましいのよ。
 でも……私は違う。
 私は、誰にも守られなかった」

その言葉は、
自分自身に向けた呟きのようでもあった。

記者はその感情の歪みに気づいたのか、
少しだけ眉を寄せた。

「……あなたは、彼女を憎んでいるんですか?」

玲奈は首を横に振った。

「いいえ。
 憎んでなんかいません。
 ただ……
 彼女が“傷つくべきこと”を、
 誰も知らないままなのが嫌なだけ。
 本当のことを話してるだけ。
 さっきから言ってるでしょう?」

その言葉は、
優しさの形をしているのに、
中身は鋭い刃だった。

記者は静かに手帳を閉じた。

「……わかりました。
 こちらで確認を進めます」

玲奈は微笑んだ。
その笑みは、どこか満足げで、どこか空虚だった。

「お願いしますね。
 事実だけを書いてください。
 それだけでいいんです」

ラウンジの照明が、
玲奈の横顔を淡く照らした。

その光の中で、
彼女の瞳は静かに濁っていた。

< 46 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop