喪失の夜に、あなたがいた
第11章:楓の本心(楓SIDE)
大学時代。
楓は祖母の通院に付き添うため、病院のロビーで待っていた。

祖母は足が悪く、歩くのもゆっくりだった。
SHIGEMORIホールディングの会長の妻として祖父を長く支えてきた祖母も、
この頃は体調を崩しがちで、楓が病院に付き添うことが増えていた。

診察を終えた祖母がロビーへ戻ってきたとき、
ほんの少し足をもつらせた。

「危ない……!」

楓が立ち上がるより早く、
一人の女性が祖母の腕をそっと支えた。

「大丈夫ですか?」

その声は柔らかく、
驚くほど自然で、
まるでその場にいた全員の空気をふわりと和らげるようだった。

祖母は少し驚いたように目を瞬かせた。

「……ありがとうございます」

女性は優しく微笑んだ。

「いえ、段差が見えづらいですよね。
 気をつけてくださいね」

その仕草も声も、
どこまでも自然で、
どこまでも優しかった。

楓はその光景を少し離れた場所から見ていた。
胸の奥がふっと温かくなる。

(……誰だろう)

祖母を助けた女性は、
そのままロビーを去ろうとした。

楓は思わず声をかけた。

「ありがとうございました。
 祖母が助かりました」

女性は振り返り、
少し照れたように笑った。

「いえ……困っている人がいたら、
 助けるのが普通ですから」

その言葉が、
楓の胸の奥に静かに落ちた。
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