喪失の夜に、あなたがいた
「……どうして……」

声が漏れた。

「どうして……僕は守れなかったんだ……」

楓は明莉の手を握りしめた。
 その手は小さくて、柔らかくて、
 今にも消えてしまいそうだった。

「僕が……そばにいたのに……」

喉が詰まる。
 呼吸が乱れる。

楓は初めて、
 自分の感情を抑えられなくなった。

明莉の頬に触れる。
 返事はない。

「明莉さん……お願いです……目を開けて……」

声が震えた。
 涙が落ちた。

楓は泣く人ではない。
 どんな時も冷静で、どんな時も自分を律してきた。

でも今は──
 そのすべてが崩れていた。

「……守れなかった……僕が離れなければこんなことにならなかったのに……」

その言葉は、
 楓自身を刺す刃のようだった。

救急車の中で、
 医師が明莉の状態を確認する。

「意識レベル低下。
 頭部外傷の可能性あり。
 すぐに処置を──」

その言葉が、
 楓の胸をさらに締め付けた。
< 92 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop