(株)フリークス
戦慄、走、纏う
10分ほどそうしていただろうか。その間頭の中は真っ白で、何かを考えようとしてもうまくまとまらなかった。



ようやく心臓の鼓動も落ち着き、自分がほぼ裸な事に気付くと、急に寒さと気だるさが全身を包んだ。



「服、着なきゃ…。」



ヨロヨロと立ち上がり、モゾモゾと着替えていると、鞄を彼の家に忘れていた事に気付く。

あの中には明日仕事で使う書類が入っている。



「どうしたもんかね…」



呟きながらベルトを締めていると、街灯の明かりが何かに遮られた。



「?」



不思議に思い、視線をベルトから上げていく。



時間するとコンマ数秒間。



父や母の顔。


飼っていた犬。


よく遊んだ神社の境内。


大学時代の恋人との濃密なセックス。


吉牛のオレンジの看板。


今朝見た動物の轢死体は猫だったか?


先週見に行ったライブの感動。



コンビニのおでんを寒い部屋で1人つついたさみしさ。



そんなものたちが刹那に訪れては消えた。



「あ」



そこには



彼が。



いた気がした。



反射的に目を閉じ、さっき頭をよぎったのはアレか?などと考えた。



ということは、俺はもうアレしちゃうんだなぁ。





ふと、本当にふと、何故だか笑いが込み上げ、次第に大きくなり、やがて爆笑に変わった。





泣き笑いしながら薄目を開けると、やっぱりいた。


再び爆笑。



やがて嗚咽を含んだひきつった笑いになり、


しまいにはシクシク泣いていた。






瞬間、胸にひんやりした何かが押し付けられた。



ビクッとして硬直し、


涙でグショグショになった顔をひきつらせたまま目をあけると、





既に服を着た彼が僕の鞄を突っ返そうと押し付けていた。


「忘れ物よ」



よく事態が呑み込めず、何かを言おうと口をパクパクさせていると。


「じゃ、また明日。」


そう言って彼は行ってしまった。



< 22 / 25 >

この作品をシェア

pagetop