この恋、上方修正銘柄です!

 と、隣にペットボトルが、とんと置かれて。
「高辻、見っけ」
 見上げると、九条が傍に立っていた。

「綾乃は?」
「今、教室まで送り届けてきた。で、そっちはこんな場所で何一人で黄昏てんねん」
「ちょっと人に疲れちゃって。九条くんこそ、何しに来たの?」
「高辻が屋上の階段上がって行くとこ、見えたから」
 追いかけて来てくれたのだろうか。不覚にも、きゅんとしてしまう。
 九条は隣に座って一口飲んだ後、ペットボトルを錦に向けて、「要る?」と尋ねた。
 慌てて、ううん、と首を振る。

 間接キス。
 九条にとっては些細なことでも、自分にとっては大したことだ。

「あれ、顔、赤いで。なんかヤラシイ想像した?」
「……帰る」
「ウソウソ、ごめん。ちょっとイジメてみたくなっただけ。俺ってSやから」
「……そういうの、リアクションに困る」
「ええから、もうちょっとだけ、俺とココにいよ。な?」

 その言い方は、優しく甘いフレーズで。
 引き止めた腕の力は強くはないが、振りほどける気がしない。
 胸がぎゅっと疼いて、苦しくなった。

 野外ステージでバンド演奏が始まったらしい。
 遠くで流れるよく分からない音楽を、二人並んで聞くともなしに聞いていた。
 と、スピーカーからピンポンパンポーンと呼び出し音が流れた。
「3年9組九条吏!至急、職員室の斉藤の元へ来るように。以上!」
 口調だけで、こめかみに青筋を立てているのが目に浮かぶ。
 ピンポンパンポーン、と今度は下降気味に鳴って、回線はぷつりと切れた。
「あ。もしかして、それで屋上まで逃げて来たの?」

「逃げてる、か。……Well put. 言い得て妙、ってヤツかもなあ」
 空を仰いだその横顔は、九条らしくもない神妙な面持ちで。
「なあ、高辻。俺、ひょっとしたら……」

 錦を見て何か言いかけたが、ふいと視線を逸らした。
「……いや、なんでもない。っていうか、斉藤め、昨日の進路相談すっぽかしたからって全校放送で呼び出さんでもええやんか」
「ちょっと、また行かなかったの?」
「今、交渉が難航中でな。どうなるか分からんのに相談なんか行ってもしゃーないやろ」
「ということは、九条くんの中では決めたんだ」
「まあな」
 そう言って笑った九条は、もう普段通りだった。
「それで、呼び出しはどうするの」
「高校最後の文化祭やのに誰が行くか」
「後の祭りにならないようにね」
「うまい!山田くん、座布団一枚!」 

 こんな風に一緒にいられる時間は後少しだと、二人共が気付いていた。
 けれど、どちらも口には出さなかった。
 言葉にすれば全てが変わってしまう気がして、怖かったからかもしれない。

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