2回振ったくせに、なにを言うの?
幼馴染に2回も振られた。
第1話:もう、追いかけないから
「おはよ、花音」
いつものようにリビングの窓をコンコンと叩いて、仲野悠斗は気だるげに笑った。
幼馴染の私、國枝花音の家に入り浸り、毎朝こうして登校するのが日課だった。
けれど、今日の私は一味違う。
「……おはよう、悠斗。先行くね」
私は悠斗の返事も待たず、玄関のドアを勢いよく閉めて走り出した。
心臓がバクバクとうるさい。
中学の卒業式。そして高校に入学したばかりの春。
私はこの悠斗に、人生をかけた本気の告白をして、見事に二回とも振られている。
一度目は「は? 何言ってんだよ」と照れ隠しのように茶化され、二度目は「お前とは幼馴染だから、そういう目で見れない」とはっきり断られた。
「もう二度と、あんな痛い思いはしないんだから!」
散々涙を流して、プライドをズタズタにされた恋心に、私は自分でトドメを刺したはずだった。
これからは「ただの隣の家の幼馴染」として適度な距離で生きる。
そう心に誓ったはずなのに、後ろからついてくるはずの足音が聞こえないことに、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。
第2話:変わっていく距離
「ねえ花音、最近悠斗くんと登下校別々じゃない? どうしたの?」
お昼休みの購買の前で、親友の美月が怪訝そうな顔で聞いてきた。
「ううん、別に。ただ、なんとなく自立しようかなって思って」
強がってみせたものの、視線の先にはポツンと一人でパンをかじる悠斗の姿があった。
不思議なものだ。これまでは私が話しかけに行っていたから気づかなかったけれど、距離を置いてみると、悠斗は女子から結構モテる。
クラスの女子が差し入れを渡しているのを見て、私の胸にトゲが刺さったような不快感が走った。
……いや、もう関係ないでしょ。私を振った男なんだから。
視線を逸らそうとした瞬間、遠くの悠斗と目が合った。
いつもなら余裕綽々な笑みを浮かべるはずの彼は、なぜかひどく焦ったような、怯えたような目を私に向け、慌ててこちらへ歩き出そうとしていた。
その姿を見て、私はそっと教室へ引き返した。
第3話:ざわめき出す胸のざらつき
放課後、図書室の窓の外を眺めると、空はどんよりとした鉛色に染まっていた。
予報通りの土砂降りが、アスファルトを激しく叩いている。
「傘、持ってこなかったな……」
仕方なく昇降口の軒先で雨宿りをしていると、背後から荒い足音が近づいてきた。
「……やっと見つけた」
振り返ると、そこにいたのはびしょ濡れの悠斗だった。
前髪から水滴を滴らせ、息を荒げている。私を探して校内を走り回っていたらしい。
「悠斗? どうしたの、そんなに濡れて」
「どうしたって……お前、連絡もなしに消えるなよ」
悠斗の声は少し震えていた。
いつも冷淡で、私を子供扱いしていた彼のものとは思えない。
「なんでそんなに怒るの。私たちがどうしようと、悠斗には関係ないでしょ」
冷たく言い放つと、悠斗は私の細い手首をぐっと掴んだ。
逃がさないと言わんばかりの強い力だった。
「関係なくない。……お前が最近、俺を全然見てくれないから、おかしくなりそうなんだよ」
第4話:自覚してしまった焦燥
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。悠斗が、私を見ておかしくなりそう?
「冗談やめてよ。2回振ったくせに、なにを言うの?」
「冗談じゃねぇよ!」
悠斗は声を荒らげ、苦しそうに眉を寄せた。
「お前が俺を好きでいてくれるのは、当たり前だと思ってた。いつでも俺の隣にいて、笑ってくれるものだと思ってたんだよ。でも、お前が本当に離れていこうとしたとき……胸のここがどうしようもなく苦しくなって……これが嫉妬だって、独占欲だって気づいたんだ」
あんなにクールだった悠斗の頬が、雨と恥ずかしさで少し赤く染まっている。
「……遅すぎるよ、バカ」
私の胸の奥で、あれほど抑え込もうとした恋心が、音を立てて再燃しようとしていた。
だけど、そう簡単に許してたまるものか。
第5話:立場逆転のアプローチ
次の日から、これまでの立場が完全に逆転した。
今度は、悠斗が私を追いかける番になったのだ。
「花音、今日の放課後、寄り道して帰ろうぜ。お前の好きなクレープ奢るからさ」
「やだ。今日は美月と約束があるの」
「そこをなんとか! 頼むから、少しだけ俺に時間をくれよ」
教室の私の机に突っ伏し、上目遣いですがる悠斗の姿に、クラス中がどよめいていた。
あの完璧超人な仲野くんが、國枝花音にベタ惚れしている。
「ふん、気が向いたらね」
つれない態度をとりつつも、私の心はとっくに骨抜きにされていた。
毎日手を変え品を変え、不器用ながらも必死にアピールしてくる悠斗を見ていると、あのとき二回振られた恨みも少しずつ溶けていくのだった。
第6話:今度は、私を振らないで
放課後の帰り道、並んで歩く私たちの距離は、以前よりもずっと近かった。
いや、正確には、悠斗が私の肩に触れそうなほど体を寄せている。
「なぁ、花音」
足を止めた悠斗が、まっすぐに私を見つめた。夕日が彼の瞳を黄金色に染めている。
「今度は、俺から言わせてほしい」
「……なにを?」
「ずっと、そばにいてくれ。お前が好きだ。……昔から、本当はずっと好きだったんだと思う」
不器用で、プライドが高くて、素直になれなかった幼馴染が、やっと私にくれた本気の言葉。
私は少しだけ意地悪く笑ってから、彼の服の裾をキュッと掴んだ。
「当たり前でしょ? ……でも、今度こそ私を泣かせたら、絶対に許さないんだからね」
悠斗は少し驚いたように目を見張り、それから今日一番の、とびきり優しい笑顔を浮かべた。
二回振られた恋の続きは、私たちを以前よりもずっと強い絆で結んでくれたのだった。
「おはよ、花音」
いつものようにリビングの窓をコンコンと叩いて、仲野悠斗は気だるげに笑った。
幼馴染の私、國枝花音の家に入り浸り、毎朝こうして登校するのが日課だった。
けれど、今日の私は一味違う。
「……おはよう、悠斗。先行くね」
私は悠斗の返事も待たず、玄関のドアを勢いよく閉めて走り出した。
心臓がバクバクとうるさい。
中学の卒業式。そして高校に入学したばかりの春。
私はこの悠斗に、人生をかけた本気の告白をして、見事に二回とも振られている。
一度目は「は? 何言ってんだよ」と照れ隠しのように茶化され、二度目は「お前とは幼馴染だから、そういう目で見れない」とはっきり断られた。
「もう二度と、あんな痛い思いはしないんだから!」
散々涙を流して、プライドをズタズタにされた恋心に、私は自分でトドメを刺したはずだった。
これからは「ただの隣の家の幼馴染」として適度な距離で生きる。
そう心に誓ったはずなのに、後ろからついてくるはずの足音が聞こえないことに、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。
第2話:変わっていく距離
「ねえ花音、最近悠斗くんと登下校別々じゃない? どうしたの?」
お昼休みの購買の前で、親友の美月が怪訝そうな顔で聞いてきた。
「ううん、別に。ただ、なんとなく自立しようかなって思って」
強がってみせたものの、視線の先にはポツンと一人でパンをかじる悠斗の姿があった。
不思議なものだ。これまでは私が話しかけに行っていたから気づかなかったけれど、距離を置いてみると、悠斗は女子から結構モテる。
クラスの女子が差し入れを渡しているのを見て、私の胸にトゲが刺さったような不快感が走った。
……いや、もう関係ないでしょ。私を振った男なんだから。
視線を逸らそうとした瞬間、遠くの悠斗と目が合った。
いつもなら余裕綽々な笑みを浮かべるはずの彼は、なぜかひどく焦ったような、怯えたような目を私に向け、慌ててこちらへ歩き出そうとしていた。
その姿を見て、私はそっと教室へ引き返した。
第3話:ざわめき出す胸のざらつき
放課後、図書室の窓の外を眺めると、空はどんよりとした鉛色に染まっていた。
予報通りの土砂降りが、アスファルトを激しく叩いている。
「傘、持ってこなかったな……」
仕方なく昇降口の軒先で雨宿りをしていると、背後から荒い足音が近づいてきた。
「……やっと見つけた」
振り返ると、そこにいたのはびしょ濡れの悠斗だった。
前髪から水滴を滴らせ、息を荒げている。私を探して校内を走り回っていたらしい。
「悠斗? どうしたの、そんなに濡れて」
「どうしたって……お前、連絡もなしに消えるなよ」
悠斗の声は少し震えていた。
いつも冷淡で、私を子供扱いしていた彼のものとは思えない。
「なんでそんなに怒るの。私たちがどうしようと、悠斗には関係ないでしょ」
冷たく言い放つと、悠斗は私の細い手首をぐっと掴んだ。
逃がさないと言わんばかりの強い力だった。
「関係なくない。……お前が最近、俺を全然見てくれないから、おかしくなりそうなんだよ」
第4話:自覚してしまった焦燥
「……は?」
思わず間抜けな声が出た。悠斗が、私を見ておかしくなりそう?
「冗談やめてよ。2回振ったくせに、なにを言うの?」
「冗談じゃねぇよ!」
悠斗は声を荒らげ、苦しそうに眉を寄せた。
「お前が俺を好きでいてくれるのは、当たり前だと思ってた。いつでも俺の隣にいて、笑ってくれるものだと思ってたんだよ。でも、お前が本当に離れていこうとしたとき……胸のここがどうしようもなく苦しくなって……これが嫉妬だって、独占欲だって気づいたんだ」
あんなにクールだった悠斗の頬が、雨と恥ずかしさで少し赤く染まっている。
「……遅すぎるよ、バカ」
私の胸の奥で、あれほど抑え込もうとした恋心が、音を立てて再燃しようとしていた。
だけど、そう簡単に許してたまるものか。
第5話:立場逆転のアプローチ
次の日から、これまでの立場が完全に逆転した。
今度は、悠斗が私を追いかける番になったのだ。
「花音、今日の放課後、寄り道して帰ろうぜ。お前の好きなクレープ奢るからさ」
「やだ。今日は美月と約束があるの」
「そこをなんとか! 頼むから、少しだけ俺に時間をくれよ」
教室の私の机に突っ伏し、上目遣いですがる悠斗の姿に、クラス中がどよめいていた。
あの完璧超人な仲野くんが、國枝花音にベタ惚れしている。
「ふん、気が向いたらね」
つれない態度をとりつつも、私の心はとっくに骨抜きにされていた。
毎日手を変え品を変え、不器用ながらも必死にアピールしてくる悠斗を見ていると、あのとき二回振られた恨みも少しずつ溶けていくのだった。
第6話:今度は、私を振らないで
放課後の帰り道、並んで歩く私たちの距離は、以前よりもずっと近かった。
いや、正確には、悠斗が私の肩に触れそうなほど体を寄せている。
「なぁ、花音」
足を止めた悠斗が、まっすぐに私を見つめた。夕日が彼の瞳を黄金色に染めている。
「今度は、俺から言わせてほしい」
「……なにを?」
「ずっと、そばにいてくれ。お前が好きだ。……昔から、本当はずっと好きだったんだと思う」
不器用で、プライドが高くて、素直になれなかった幼馴染が、やっと私にくれた本気の言葉。
私は少しだけ意地悪く笑ってから、彼の服の裾をキュッと掴んだ。
「当たり前でしょ? ……でも、今度こそ私を泣かせたら、絶対に許さないんだからね」
悠斗は少し驚いたように目を見張り、それから今日一番の、とびきり優しい笑顔を浮かべた。
二回振られた恋の続きは、私たちを以前よりもずっと強い絆で結んでくれたのだった。