別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 チュンチュン、という可愛らしい小鳥の鳴き声と、窓から差し込む朝日で目を覚ます。

 一夜明けてもやはり私は生きていて、部屋だって昨日と全く同じ。


 ……今更だけど、私、本当に生き返って……いえ、時間が巻き戻ったんだわ。

 昨日は正直、それどころじゃなくて状況をすんなり受け入れてしまったけれど……よく考えると変な話よね。時間が巻き戻るなんて、聞いたことがない。
 それこそ、魔法みたいな話だわ。そんなこと、ありえないと思うけれど……。

 ……いつの日か、真相がわかる日が来るのかしら?


 まぁ、今はわからないことを考えていても仕方がないわね。

 そろそろ侍女が来るはずよ。一度目の初夜とは違って、夫は部屋にいないのだけれどね。

 ____コン、コン、コン

「失礼いたします。奥様、旦那様。朝のお支度のお時間でございます。部屋の中に入ってもよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ」

 私の返答から一拍置いて、侍女が部屋に入ってきた。
 それから、ベッドを見て目を見開く。

「奥様……お一人だけですか? 侯爵様はもうお帰りになられたのでしょうか」

 あぁ、想定通りの反応をありがとう。名前は確かサラ、だったかしら。
 この子は確か、新人メイドだったはず。だったら……仕掛けるのは、今ね。

「いいえ、その……旦那様は、昨夜何もせずに帰ってしまわれたの」
「えぇ!?」
「どうしてかはわからないけれど……旦那様は私のことを、そういう対象には見ることが出来ないみたい……」

 悲しそうに俯きながらそう告げると、サラはアワアワしながら私のもとへ駆け寄った。

「き、きっと昨日は体調が悪かったんですよ! だって、奥様はこんなにお美しいのですから!」
「……ありがとう、そんなこと言ってくれるの……サラだけよ」

 少し悲しそうに、けれども儚さを感じさせる表情を作って、サラに告げた。
 サラは捨てられた子犬のような瞳で私を見てから、大きく口を開いた。

「大丈夫です! 侯爵様が夢中になるよう……これから毎日、頑張りましょう! このサラ、精一杯尽力いたします!」




 ____純粋な子ね。

 あまりの必死さに、なんだか肩の力が抜けて、ふっと笑みが溢れた。

 ……この侯爵家には敵しかいないと思っていたけれど、案外そうでもないのかもしれない。

 もしかしたら、一度目の人生で私が死んだ後、悲しんでくれた侍女もいたのかしら。
 ……そうだったら少しは救われるわね。

 それに、サラはきっとこのことで私を「可哀想な奥様」だと思うでしょう。
 そうすれば、同情を買うことが出来る。

 ……純粋なあなたを、利用することになってごめんなさい。



 それでも、死んでから初めて、他人の温かさに触れることが出来て……。
 私の心は、少しだけ解れたのだった。


「……サラ、朝の支度をお願いできるかしら」
「はい、もちろんです」

 ____この後は、夫との初めての朝食が待っている。

 一度目の人生では、この朝食会で私はあることをして大恥をかいた挙句、夫にフォローまでされてしまったのだ。
 そのせいで、私は夫に心を許してしまった。



 けれど今日は絶対に、前回の時のような『失敗』は繰り返さない。

 生まれ変わった私を、よく見ておくといいわ。……ヴィクトル・クラウゼン侯爵。
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