別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 それから少し後の話。

 横領の罪によりヴァイス公爵家によって連行されたメルローズ男爵。
 だが、私を襲おうとしていた状態での現行犯逮捕だったということもあり、「他にも余罪があるのでは」と屋敷内捜査が入ったそうだ。

 結果メルローズ男爵家からは、客人には一見わからない地下室へ繋がる扉が見つかった。
 その地下の状態はというと……筆舌しがたいほど、酷い有様だったらしい。

 なんと近頃行方不明になっていた若い女性や子供達が、栄養失調状態で地下牢に捕えられていたそうだ。
 どうやら、メルローズ男爵のターゲットは貴族の奴隷として売れそうな人間だったらしい。

 ……ターゲットになりそうなキャロラインさんが、どうやって男爵に取り入るつもりだったのかはわからないけれど……もしかしたら彼女も、私やアレク様のように何か魔法が使えるのかもしれない。

 魔法を貸して人身売買の手伝いをする代わりに、養子にしてもらうつもりだった、とか……。

 憶測の域を出ないけれど、メルローズ男爵のやりそうなことではある。なんにせよ、キャロラインさんには利用価値があったのだろう。

 メルローズ男爵がキャロラインさんと接触する前に捕えられてしまった今、真相を知る術はないけれど……。

 でも、きっとこれでいいのよね。






 それよりも、私が驚いたのは……侯爵邸に戻った際の夫の反応だわ。

 私がボロボロの格好で屋敷に戻ってくるなり、サラは泣きながら私に抱き着いた。
 正直、これは想定内だったのだけれど……。

 なんと夫が私の肩を掴んで、泣きそうな顔で語りかけてきたのだ。

「どこに行っていたんだ!? こんなボロボロの格好で……屋敷の誰も君の行方を知らないから、心配で仕方なかった……! 大切なんだ、君のことが……頼む、もうどこにも行かないでくれ、私のそばにいてくれ……」

 ……なんてことを、言われてしまったのである。

 これには流石の私も困惑した。深い事情を知らない周りの使用人達は、「まぁ!」「相変わらず、夫婦仲がよろしいのですね」なんて喜んでいたけれど……そんなわけはない。

 けれど、演技にしては些か迫力があって、私は思わず「メルローズ男爵邸へ……」と口を滑らせてしまった。

 そうしたら、夫はそれはもう絶望的な顔をして、「メルローズ男爵……だと……!? あの男の家で何をされた!?」と取り乱したのである。

 私はてっきり、キャロラインさんを養子にする計画が狂ったのではないかと心配で取り乱したのかと思ったのだけれど……。

「私は無事、メルローズ男爵は連行されて、これから調査と詳しい処遇が決まります」

 私がそう伝えると、夫は心底安心しきった表情で「そうか」と眉を下げたのである。





 ____わからない、夫のことが。

 あなたはキャロラインさんと結婚したいのではなかったの?

 私を、最初から愛してもいなければ、殺してもいいと思っていたはずでしょう?

 なのにどうして、私が生きていてそんな嬉しそうな反応をするの……。





 私はなんだか、もう考えるのも億劫になってしまって……。

 その日はアレク様にいただいた手紙を抱きながら、一人静かに眠ったのだった。
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