別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 喉が渇いた。
 お尻が痛い。
 お腹が空いた。
 お風呂に入りたい。

 この独房に入れられて、もう何日たったんだろう。外が見えないから、時間の経過だってわからない。
 まだ一日しか経っていないような気もするし、もう一か月以上の月日が経ったような気さえしてくる。

 だれか、ここから助け出して。






 ____カツン、カツン……。

 だれかの足音が聞こえる。看守だろうか。
 ……いいや、ちがう、あのシルエットは、良く知っている。

「ヴィク、トル……?」

 いつもみたいに元気な声を出そうと思ったのに、声が掠れてうまく発声できなかった。
 でも、来てくれたんだ。私の『魅了』の魔法は、まだ解けていなかった!!

「ねぇ……ヴィクトル……ここから、だして……?」

 暗い独房の中で、瞳を鈍く光らせる。
 ヴィクトルが、私の瞳を見つめている。けれど、ヴィクトルの様子は変わらなかった。

 それから、形の良い艶やかな唇を小さく開いた。

「キャロライン、私は、お前に別れを言いに来たんだ」
「わかれ……?」
「あぁ……。小さい頃、私は君のことが好きだった。確かに愛していた。でも、今は違う。君のことを、醜く恐ろしい女としてしか、見られなくなってしまったんだ」
「……え……」
「私は……今はシャーリンのことが、好きなんだ。だから、今までありがとう、キャロライン。……良い夢を」

 ヴィクトルがそう言って、私に背を向ける。

 私はその背に向かって思いきり手を伸ばしたけれど、暗闇の中でだらんと細くて醜い手が力なく伸ばされただけで、何も掴めやしなかった。






 そして、また何日かの月日が経った頃。
 看守から、私の処刑日が告げられた。


 *****

「奥様。侯爵様を狙った殺人未遂事件の犯人が、明日公開処刑されることになったそうです」
「……そう。名前は?」
「えっと……確か、キャロラインだったかと。見に行かれますか? 侯爵様は出向かれるようですが……」
「……私は、いいわ。もう私の人生には、関係のない人だから」
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