別にあなたに愛されなくても。〜死に戻った侯爵夫人は、二度と夫を愛さない〜
 私の娘が、社交界で『氷の令嬢』と呼ばれていることは知っていた。
 それでも、大事な大事な私の娘。たとえ周りからなんと呼ばれようと、幸せになってほしいとずっと願っていた。

 そんな時、娘と結婚したいという侯爵様が現れた。私と夫はもう、それはもう驚いたけれど、同時にとんでもなく嬉しかった。
 ようやく私たちの娘のすばらしさをわかってくれる人が現れたのだ、これできっと、娘も幸せになれるはずだと心の底から信じていた。

 でも、ある日突然娘が帰ってきた。
 早朝に、数少ない荷物を持って、泣きそうな顔で私たちの前に帰ってきたのだ。

 すぐに、なにかあったのだとわかった。でも、それは侯爵様と喧嘩してしまったとか、そんなことだろうと思っていた。だって、社交界で聞く娘たちの評判はどれも素晴らしいもので……。きっと、娘は幸せなのだと思い込んでいたから。

 でも、違った。
 娘はちっとも、幸せなんかじゃなかった。それどころか、結婚初日からずっと辛い思いを抱えながら戦っていた。
 私は絶望した。娘が幸せじゃなかったことに、一切気付いていなかった自分に、だ。

「ずっと辛かったの」と子供のように泣く娘を見て、あぁ、私たちはなんて大変な間違いを犯してしまったのだろうと深く後悔した。

 だから、娘が王太子殿下に求婚されたときは……それはもう、本当に驚いたけれど。
 でも、娘の幸せそうな姿を見て、「あぁ、きっと今度こそは大丈夫だ」と、ようやく安心できたの。

 婚約してからの娘……いえ、シャーリンは、本当に毎日嬉しそうで、綺麗で、可愛くて……前よりもずっと、楽しそうに笑えるようになった。
 私にとって、それが何より一番の幸福だった。

 そんな娘は、とうとう明日結婚する。
 この国の王太子妃になるのだ。

 ただの伯爵夫人だった私が、王族の結婚式に家族として参列することになるなんて……本当に人生、何が起こるかわからないものねって、夫と話をした。
 夫は静かに泣いていて、それにつられて私も泣いてしまった。

 けれど、明日はもっと泣いてしまうのだろうな。そして、シャーリンにいつもの調子で言われるのだ。
「お母様は本当に泣き虫ね」って。

 あぁ、明日が楽しみだわ。
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