灰色の日々に、君が灯した甘い色
(行っちゃった……)

胸の高鳴りが、なかなか収まらない。


一人残された歩道で、私は激しい鼓動をなだめるように胸に手を当てた。

『分かりやすくしますね』

「な、何を?」

考えただけで、また指先が熱くなる。

(いやいや、待って)
(また、私が勝手に勘違いしてるだけかもしれない)

一気にいろんなことを聞いたから、頭が追いついていないだけ。

彼は、推しで尊いだけと思いたくても、頬に残る熱がそれを許さない。


とにかく明日は、コーヒーショップに寄ろう。

(さっきの、道案内のお礼をし忘れたから)
(それを言うだけ……)

(……)

違う。

(しらいしくんと、もっと話してみたい……から)


駅へ向かおうと、ゆっくりと一歩を踏み出す。
緊張の連続でロボットのようにぎこちない歩き方になるかと思ったら、妙に足元が軽いことに気付いた。
靴音が軽やかに響く。


ショーウィンドウに映る街並みは、見慣れたモノクロ……のはずだった。

夕方の光を反射するガラス、行き交う人々の鮮やかな音。

街路樹の、柔らかい緑色の葉。

どれも、灰色が混ざりながらも、眩しいほどの色に溢れている。


このまま、駅ビルに寄って服を見て帰ろうと思った。

なんとなく、気になる色がある。

灰色ではなくて。
少しだけ、甘い色――


交差点の信号待ちの間、スマホを取り出して画像フォルダを開く。

あの日のカフェラテを見つめる。

いくつも重なった繊細なハートの形。

あのとき見たよりも、ずっと鮮やかに、ずっと大きく見える。


――不思議なほどに。



(主人公視点 終)
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