婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました
 私がそう告げると、犯人は動揺したのだろう。

 私の首元を掠めていたナイフに、ぐっと力が入ったのがわかった。
 ピリッと、首筋に痛みが走る。

「ハッタリのつもりでしょう……!?」
「____そう思っているのは、あなただけですよ!」

 ____バァン!!

 勢いよく扉が開かれた音と同時に、いつものハツラツとした声が聞こえてきた。

 私はそっ……と目を開ける。

 そして次の瞬間……私に跨っていた犯人が、飛び出してきた二人の衛兵によって一瞬で取り押さえられた。

 私は部屋の入口に立っている元気な声の主……セーラの方を見ながら、ゆっくりと口を開く。

「助かったわ。流石はセーラね。ベストタイミングだったわよ」
「ぜ、全然ベストじゃないです! 怪我してるじゃないですか! もっと早く突入の指示を出せばよかった……!」

 セーラは泣きそうな声でそう言ったけれど……私の言葉で犯人が動揺していなければ、こんなにスムーズに捕まえられなかったと思う。

 だから、本当にベストタイミングだったのよ。




「なんで……どうして、バレて……」

 床の方から、小さく震えた声が聞こえてきた。
 私は静かに、けれどもハッキリと彼女の名前を呼ぶ。

「…………舐められたものね。私はあなたが紅茶を淹れにきた時には、既に見抜いていたわよ____ベラ。いいえ、ベラの偽物さん……と言った方が正しいかしら」
「なっ…………!」

 ベラの偽物がわなわなと唇を震わせる。

 私は彼女を冷ややかな目で見下ろしながら、彼女に言葉を投げかけた。

「あなたは、ベラの声真似も仕草も、変装も完璧よ」
「じゃあ、なんで……!」
「簡単な話よ。ベラが好きな花は薔薇じゃなくて、アイリスなの」
「は……? そんな、ことで……?」

 ……『そんなこと』なんかじゃない。
 ベラがアイリスの花を好きになってくれたきっかけは、私にとっても大切な思い出だもの。

 それに、本当は彼女に好きな花を尋ねる前から、ベラが偽物であることには気付いていた。

 だって、彼女の格好には明らかに不自然な箇所があったから。

 でも、そんなこと……ぽかんと口を開けている彼女に教えてあげる義理はない。

「……今度は私が尋ねる番ね。ねぇ、本当のベラの居場所を教えてもらえるかしら。……もちろん答えなかったら……わかるわよね?」
「ひっ……!」

 床に抑え込まれている彼女の首元に、剣先が突きつけられる。

 彼女は引き攣った声を漏らしながら、「いうから、いうから殺さないで……!」と命乞いをした。

「なら、さっさと教えてちょうだい」
「……レインフォード伯爵家の……地下牢よ……!」
「……地下牢?」

 聞きなれない単語に、思わず目を見開いた。

 ベラがレインフォード伯爵家にいるだろうことは察しがついていたけれど、地下牢ですって?

 そんなもの、私は知らない。
 もしかして、私が家を出てからそんなものを作ったというの……!?

 一体、何のために……。

 いいえ、それよりも……今はベラを救うことを考えなければ。

「あなたの裏にいるのは、お母様……いえ、レインフォード伯爵夫人で間違いないわね?」
「っはい、そうです……」
「そう、ありがとう。証人もいることだし……これで証拠はバッチリね」

 私はそう言って、優しく彼女に笑いかけた。
 紅茶を淹れてくれた時のような、穏やかな笑みで。

 それから私は、セーラ達に堂々と宣言したのだった。






「では……行きましょうか。本物のベラを助けに。____そして、本物の悪を裁きに、ね」
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