あなたは悪魔で運命の人

それから数日後、健斗はいつものようにコーヒーを淹れながら話し始めた。
なにやら、いかにも気が進まないという表情だ。

「恵美、明日から大阪に2週間くらい出張になったんだ。大阪でトラブルでさぁ、まったく参ったよ。」

「急に大変だね…でも大阪からも連絡はしてね。」

「うん。毎日連絡するよ。恵美も一人だから気をつけろよ!」

「大丈夫だよ。戸締りしっかりするから…健斗も気を付けて行ってきてね。」

「…うん。行ってくるよ。」

突然の出張で、健斗の居ない2週間はとても長い。
でも仕事だから我儘は言えない。
私は笑顔で健斗を出張に送り出した。



「今日から健斗も居ないから、帰っても暇だしゆっくり買い物でもして帰ろうかな。」

最寄りの駅で降りた私は、独り言を呟きながら家に向かっていた。
いつも急いで必要なものだけを買っているショッピングセンターも今日はゆっくりと店内を見て回った。

買物を終えて商店街をぬけると住宅街が続いている。
この辺はかなり人通りも寂しい。

すると何故か後ろから誰かに見られているような感じがした。

「あれ、気のせいかな…。」

私はあたりをくるりと見渡したが人影がない。

気のせいだと思い歩き出したその時だった。

“ザッザッザツ…”

後ろから靴音のような音が近づいて来る。

男性の靴音のようだ。

恐い…どうしよう…。

勇気を出して振り返ってみた。


「鈴木さん、お疲れ様です。」

そこにいたのは、同じ会社の男性で先輩の向井 淳(むかい じゅん)だった。
向井は同じ営業部の先輩だ。

「む…向井先輩…お疲れ様です。でも…どうしてここに居らっしゃるのですか?」

「たまたま…と言いたいけど、違うんだ。」

「…っえ?」

「鈴木さん、君に話したいことがあってね。家にお邪魔しても良いかな?」

「あの…実は…私は…高山さんと…その…」

「高山健斗と付き合っているのは知っているよ。同棲していることもね。」

「じゃあ…なぜ?」

「今日から健斗は大阪だよね。このチャンスを待っていたんだ。家はこの近くだよね。お茶一杯だけもらえないかな?すぐに帰るから。変な事なんてしないよ、これでも健斗の先輩だしね。」

向井先輩は確かに健斗の先輩でもある。

(家には入れたくないけど…お茶飲んだらすぐに帰ってもらおう…)

「では…散らかってますが、どうぞ…」

「ありがとう。嬉しいよ。」

私は健斗の先輩でもある向井を仕方なく家に入れてしまったのだ。

家に着いた私は向井をリビングへと案内したしソファーに座るよう案内した。
向井は家の中をジロリと見渡すと、リビングのソファーへ座った。

「向井先輩、コーヒーでよろしいですか?インスタントですが…」

「ああ、悪いね…お願いするよ。」

私は急いでお湯を沸かし、コーヒーを淹れた。

「どうぞ…お砂糖とミルクはこちらに置きますね。」

「ありがとう。君は飲まないの?」

「私は夜にコーヒーは飲まないのです。カフェインで眠れなくなっちゃうので…」

「…そう。」


静かな部屋に沈黙。息苦しい。

「あの、向井先輩…お話ってどのような事ですか?」

向井は私を見ながら不気味な笑みを浮かべる。

「俺はね、ずっと鈴木さん君が好きだったんだよ。いつも俺は君を見ていたのにまったく気づいてくれなかったよね。」

「なにを急に言っているのですか。」

「俺は、健斗よりもお前を愛しているんだ。それなのに君は俺のことなんて気にもしていなかっただろ。」

「向井先輩、どうしてそんなことを言うのですか。」

「俺を愛してくれよ。俺の女になってくれ。」

向井は急に立ち上がると、私の手首をつかみ引き寄せようとする。
私はなんとか逃げようと抵抗するが、向井の力には対抗できない。
強引に引き寄せられ、ソファーに押し倒された。

「やめてください。何をするんのですか!!大声出しますよ!」

「大声出すがいい。誰も助けには来ないよ…。大好きな健斗君も今日は来てくれないし、残念だね。」

両手を押さえられて、向井が私に覆いかぶさった。

(動けない…)

強引に口づけされる

(気持ち悪い…嫌!)

向井は私の服を破き、ブラジャーを剥ぎ取ると、あらわになった胸にしゃぶりついた。

(私…このまま…この人に犯される!嫌だ…誰か助けて!!)

スカートをめくり上げ、下着に手を入れてくる。

「お前が嫌がっても、身体はどうかな。」

向井の指がさらに下着の奥へと入って来る。

「お願い…もう…やめてください…なんでこんなことをするのですか、助けて!」

「こんな状態で、止められるわけないだろ!!」

向井はズボンのファスナーを下した。


私は恐怖で目をぎゅっと閉じた。


(お願い、助けて!)


その時だった。

ドカッ、ドスッ、ガタガタン。

驚くような大きな音がした。
私はぎゅっと瞑っていた目をそっと開けてみる。
すると、向井が横に倒れて気を失っているようだ。

(なに…ないが何が起こったの!)

理解できない状況の中、後ろから声が聞こえた。

「大丈夫か?」

声のほうに目線を向けると、そこには信じられない人が立っていた。

「龍崎部長!なぜ、ここに?」

すると龍崎部長は自分の上着を脱いで私に掛けてくれた。

「怖かっただろう。遅くなったが無事でよかった。」

その言葉に緊張感が解けた私は、なぜか涙が溢れて止まらない。

少しして向井は目を覚ましたらしく、龍崎部長を見て怯えている。

「龍崎部長、なぜ…あなたが…ここに居るんですか…?」

「お前こそ、ここで何しているんだ?鈴木さんと仲良く話をしてるようには見えなかったがね。」

「くっ…邪魔しやがって。」

「向井、これ以上殴られたくなかったら、早く出ていけ…二度とここに来るな!」

向井は悔しそうな表情を浮かべたが、次の瞬間、龍崎部長に何かを叫びながら殴りかかって来た。
しかし、向井は龍崎部長に近付くことができない。

「うぁ!!な…な…なんだ!!」

そして、まだ龍崎部長に触れていないのに、向井は後ろに吹き飛ばされてしまった。

「なんだ…これ…人間業じゃない!」

「これが最後だ…向井、殺されたくなかったら出て行け!」


向井の顔は、みるみるうちに血色を失う。
そしてバタバタと逃げるように部屋を出て行った。



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