あなたは悪魔で運命の人
カタカタ…。
パソコンの音が静かなオフィスに響いている。
マネージャーの仕事の手伝いを引き受け残業中。
もうオフィスに残っている人は僅かだった。
「鈴木さん、悪いね。だいぶ遅くなったけど大丈夫かい?後は僕がやるから帰っていいよ。」
「大丈夫です。もう少しなので私も手伝います。頑張りましょう。」
「悪いね、助かるよ。」
本当は早く帰りたいけど、一度引き受けた仕事を途中で投げ出すことはできない。
それに、健斗も接待で遅くなるらしいから、頑張ろうと思っていた。
すると窓の方から音が響いて来た。
パチパチパチパチ…バタバタバタバタ…。
その音は窓に雨が打ち付けている音だった。
ふと窓に目を向けると大粒の雨がガラスをつたっている。
するとマネージャーは何かを思い出したように話し出した。
「そういえば、台風が近づいているらしいよ。鈴木さん、危ないからお帰り…僕は会社でも泊まれるからね。」
さすがに私は会社に泊るのは嫌だったので、マネージャーの言葉に従う事にした。
「申し訳ございません。お先に失礼いたします。」
「ああ…気を付けてお帰り。今日はありがとう、助かったよ。」
私はビルの入り口で外の様子を伺った。
すると、もうすでに傘が役に立ちそうにもないほどの暴風雨だ。
「もう少し前に帰ればよかったなぁ。健斗はお得意様と飲み会で帰れそうもないってメールだし、
しょうがないから駅まで走ろう!」
小声で呟いた私は駅に向かって走り出そうとした。
しかしその時、後ろから誰かの声がした。
「鈴木さん、今ニュースで電車が止まったと言っていたぞ。駅に行っても帰れないな。」
その声は龍崎部長だった。
しかし部長はそれだけを私に伝えると傘をさしてビルを出ようとしている。
「じゃあな、鈴木さん気を付けて帰れよ。」
「あ…あの…部長は、どうやってお帰りになるのですか?」
「あぁ、僕は知人に頼んで近くのホテルを一部屋予約したんだ。」
「…そうですか。あ…あの。」
「…何?」
「私…帰れないのですが。」
「…うん。残念だけどそうだね。」
「そうだねって…そんなぁ!」
「…そんなぁ?僕にどうしろというんだ。」
「あの…一人で置いて行かないでください。」
「あいにくホテルは一部屋やっと頼んで予約できたんだ。だから無理だな。」
「私も連れてってもらえませんか?」
龍崎部長は少し驚いて目を大きく見開いた。
「俺に襲われたいの?」
「ち…ち…違います。」
私は会社に取り残されるのが嫌で、龍崎部長の後を追った。
傘をさしていても、髪までびっしょり濡れるほどだった。
龍崎部長は仕方なく私を部屋に入れてくれることになった。