あなたは悪魔で運命の人

私が龍崎部長のところから自分の家に戻ったその時、ちょうど健斗からの着信があった。

「恵美、今東京の空港に着いたよ。これから直接会社に向かうよ。一刻も早くこの動画を会社に届けないと危ないからな。」

「…うん。私も支度したら会社に向かうね。健斗、気を付けてね。」

自宅に戻った私は、急ぎ身支度を整えた。
化粧をしようと、唇に手が触れたとき、ふいに龍崎部長の口づけを思い出してしまう。

「こんな時に…私、何考えているのだろう!」


会社に到着すると、既に健斗がマネージャーと話をしていた。
マネージャーは深刻な顔で話を聞いている。
恐らく、動画を見せたのだろう。
いつも温和なマネージャーが、あんなに深刻で怒りも感じる表情をしている。
よほど話が許せないのだろう。
健斗たちはそのまま急ぎどこかに歩いて行ってしまった。

…その日の午後…

三枝物産の社長と、役員とみられる男性が会社に呼ばれた。
健斗とマネージャー、そして龍崎部長が応接室で応対をしているという。

数時間後、応接室から三枝社長達が出て来た。
気のせいか三枝社長は顔色が悪いように見える。
それに続き、健斗たちが部屋から出て来た。

少しして三枝物産の方々が帰ると、マネージャーが私に声を掛けて来た。

「鈴木さん、ちょっといいかな、話がある。」

私を営業部の横にある打ち合わせコーナーに連れて行き、健斗も呼んで3人でそこへ座った。
私は健斗の顔を近くで見ると、なぜか急に涙が溢れ出した。
健斗は私の頭をポンポンと優しく叩きながら、顔を覗き込んだ。

「恵美、全部終わったよ。心配かけて申し訳ない。」

私は静かになんどか頷いた。
張り詰めていた気持ちが緩み涙が出てしまったようだ。

マネージャーが今回の事件をあらためて説明してくれた。

「今回の件は全て三枝社長に伝えたよ。もちろん動画の件もね。本来ならば警察に言うべきだが、何とか伏せて欲しいと要望があってね。取引は約束通り行う事と、今後は高山君に娘を近づけない事を約束してくれたよ。」

健斗は無言で頷いた。

「僕は、すべて解ってもらえて、取引もしてくれるなら許すことにしたんだ。…恵美もそれで良いよね。」

「私は健斗が良いと言うなら、それで良いと思います。」

マネージャーも私の返事を聞くと笑顔で頷いた。
その時はこれで全て終わったのだと感じていた。


しかし、まだ終わっていなかったようだ。

会社の就業時間も過ぎ、そろそろ仕事を終わらせようと思っていた時のことだった。
マネージャーが慌てて近づいて来た。

「鈴木さん、大変だ!」

「…えっ…どうしたのですか?」

「三枝物産のお嬢さんが…事故で運ばれたそうだよ!」

「それは、どういうことですか?」

「東京に急ぎ戻って来たそうだが、乗ったタクシーが事故に合い重体で危ないらしい。」

(…まさか…あの人が…)

すぐに私は、部長室に向かい走っていた。
部長室のドアをノックする。

“コンコンコン”

「…どうぞ…」

「龍崎部長、よろしいでしょうか?」

「…うん。そんなに急いでどうしたのかな?」

「さ…三枝物産のお嬢様が…事故に…合われたって…」

「そうみたいだね。」

「ま…まさか…あなたが…事故に合わせたのですか?」

「ひどいな…とんだ濡れ衣だね。」

「重体で危ないと…聞きましたが…」

「…可愛そうだけど、助からないと思うよ。」

龍崎部長は椅子を回転させて後ろを向いた。
窓ガラスに写る龍崎部長の口元に、笑みが浮かんだように見えたのは気のせいなのだろうか。

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