弾け跳ぶアセロラ
4. おせっかいヒーロー
部屋の机の奥の方。そこからアタシは便箋を引っ張り出した。
「シンプルだし、これなら女子じゃなくても使えそう」
久しぶりに見る便箋。折り目がつかないようにクリアファイルに入れてから、寝た。
翌朝、支度を済ませてから部屋の机に置いたクリアファイルと、くしゃくしゃのメモ用紙をバッグに入れた。
学校に向かう途中、電車でバッグが押しつぶされそうになったけどアタシは必死にガードした。この日に限って電車はぎゅうぎゅう。
教室に着くと、隅の席にデカいエノキが一本生えている。デカいエノキはちょっとしおれていて、なかなか声をかけられない。
結局、放課後まで声をかけられず教室を出ようとしていたエノキを、アタシは呼びとめた。
「瑞嶋、そういえばコレ落としたよね?」
「あ、由加梨が持ってたんだ」
メモ用紙を瑞嶋は慌てて受け取る。
意外とキレイな字なのに、何度も書き直した跡が残っていた。
昨日家でもこっそり見たなんて言えない。
「ごめん!アタシにかと思って勝手に見ちゃった。だからコレでもう一回書き直しなよ」
カバンから便箋をそっと取り出し、渡すとクスっと笑って瑞嶋は首を横に振る。
「よかった。嫌われたかと思ってた⋯⋯昨日、冷たくしちゃったかもって。やっぱり由加梨っておせっかいなんだ」
アタシの手にある便箋を見つめる瑞嶋。
「嫌う?なんでよ。って、ちょっと!おせっかいって人がせっかく持ってき」
「あの時は、ありがとうございました」
「え?」
瑞嶋は、深く頭を下げてゆっくりと頭を上げた。一瞬の出来事のはずなのにアタシにはスローモーションに見えるくらい、キレイなお辞儀だった。
「そのおせっかいに救われたんだ」
「ん?」
まるっきり身に覚えがない。救う、なんてそんな大層なこと。
「ほら、1年前⋯⋯まだクラスが別だったとき」
駄目だ、本当に分からない。頭の中がグルグルと回って熱くなる。
「由加梨!眉間のシワがどんどん濃くなってるわよ!」
声をかけられハッとする。茉菜がイタズラな顔をして近づいてきた。
「⋯っ!ま、真中さん。いつからそこに⋯⋯」
茉菜の声に瑞嶋はビクッと跳ねる。
「お!瑞嶋チャン初喋りよね?そこはマドンナって呼んで欲しいんだケド」
茉菜のニヤついた視線に気づいた瑞嶋は手で顔を隠した。
「へー由加梨のおせっかいがね。たまには役に立つじゃない」
「ちょっと聞いてたの!瑞嶋も、みんなが呼んでるからって無理にマドンナって呼ばなくてもいいから」
「いいじゃないもう!ほら、瑞嶋チャンさっきの続きは?」
アタシに睨まれながらも、楽しそうに身体を揺らしていた茉菜。そんな茉菜の様子をうかがいながら瑞嶋は口を開いた。
「あっ⋯⋯まあ、嫌な奴らを由加梨が成敗してくれたって感じかな」
「はあー?アタシが?」
首を傾げるタイミングが茉菜とかぶる。
「そう。同じ中学だった奴らに、ずっとコソコソ言われてて。その日は廊下で『瑞嶋は相変わらず1人だな〜可哀想。そのうち高校も辞めんじゃね』って。さすがにキツいかもって時にヒーロー参上!⋯⋯みたいな」
懐かしそうに喋る瑞嶋の顔は、ほころんでいた。
「腹立つわね〜ホンっと嫌な奴ら。でもヒーローって。それ面白いわね!それでヒーローは?何て言ってくれたのかしら」
「え、えっと『ダッセー高校生になってもまだ、あんなこと言う奴いんだ。可哀想なのはどっちだよ』って。そしたら、みんな気まずそうに黙り込んでた」
アタシと茉菜は目を合わせた。それからちょっとしてフフッから爆笑に変わった。
そんなアタシ達を見て瑞嶋もつられたのか、握った手で口元を隠した。
「ハァ⋯いつも由加梨そんな事ばっかしてるから、どれのことか思い出せないわね。しかも瑞嶋チャン再現度高いわね〜」
また瑞嶋はいつもみたいに手で顔を隠した。
「⋯⋯うん。でも由加梨は怖がられてたから、奴ら、何も言ってこなくなったんだ」
「は?待ってアタシ怖がられてんの?」
腹を抱えて、アタシを指差す茉菜。
「由加梨アンタ怖がられてるって」
「あ⋯⋯真中さんもだよ」
「へ?ワタシも?」
「だって彼氏さんってボス?とか呼ばれてる人だよね。でも、真中さんも怖いし」
「ワーターシーは怖くないわよ?」
言い方が面白くてアタシも茉菜を指差して笑った。
「茉菜もじゃん!⋯⋯って良かった。アタシ達が話しかけられないのって、嫌われてたからじゃないってこと?」
「フフフッ!そうみたいね。ワタシ達、怖がられてただけみたい」
アタシたちはまた大爆笑してしまった。今度は瑞嶋も一緒に。あんなふうに笑うのは意外だったけど。
「瑞嶋って、めっちゃ笑うとか出来るんだ」
「え、俺のこと人じゃないって思ってる?」
ツッコまれちゃったけど、こんなに学校で笑ったのは久しぶりだった。
目の前に瑞嶋がいるのが不思議。
「瑞嶋って好きな食べ物なに?」
「え、急すぎる⋯⋯」
アタシもびっくりした。先に動いたこの口が。
「ちょっと、どうしたのよ由加梨!」
⋯⋯あっ、茉菜もいたんだった。
心臓がザワつく。明日のことを考えて。
「シンプルだし、これなら女子じゃなくても使えそう」
久しぶりに見る便箋。折り目がつかないようにクリアファイルに入れてから、寝た。
翌朝、支度を済ませてから部屋の机に置いたクリアファイルと、くしゃくしゃのメモ用紙をバッグに入れた。
学校に向かう途中、電車でバッグが押しつぶされそうになったけどアタシは必死にガードした。この日に限って電車はぎゅうぎゅう。
教室に着くと、隅の席にデカいエノキが一本生えている。デカいエノキはちょっとしおれていて、なかなか声をかけられない。
結局、放課後まで声をかけられず教室を出ようとしていたエノキを、アタシは呼びとめた。
「瑞嶋、そういえばコレ落としたよね?」
「あ、由加梨が持ってたんだ」
メモ用紙を瑞嶋は慌てて受け取る。
意外とキレイな字なのに、何度も書き直した跡が残っていた。
昨日家でもこっそり見たなんて言えない。
「ごめん!アタシにかと思って勝手に見ちゃった。だからコレでもう一回書き直しなよ」
カバンから便箋をそっと取り出し、渡すとクスっと笑って瑞嶋は首を横に振る。
「よかった。嫌われたかと思ってた⋯⋯昨日、冷たくしちゃったかもって。やっぱり由加梨っておせっかいなんだ」
アタシの手にある便箋を見つめる瑞嶋。
「嫌う?なんでよ。って、ちょっと!おせっかいって人がせっかく持ってき」
「あの時は、ありがとうございました」
「え?」
瑞嶋は、深く頭を下げてゆっくりと頭を上げた。一瞬の出来事のはずなのにアタシにはスローモーションに見えるくらい、キレイなお辞儀だった。
「そのおせっかいに救われたんだ」
「ん?」
まるっきり身に覚えがない。救う、なんてそんな大層なこと。
「ほら、1年前⋯⋯まだクラスが別だったとき」
駄目だ、本当に分からない。頭の中がグルグルと回って熱くなる。
「由加梨!眉間のシワがどんどん濃くなってるわよ!」
声をかけられハッとする。茉菜がイタズラな顔をして近づいてきた。
「⋯っ!ま、真中さん。いつからそこに⋯⋯」
茉菜の声に瑞嶋はビクッと跳ねる。
「お!瑞嶋チャン初喋りよね?そこはマドンナって呼んで欲しいんだケド」
茉菜のニヤついた視線に気づいた瑞嶋は手で顔を隠した。
「へー由加梨のおせっかいがね。たまには役に立つじゃない」
「ちょっと聞いてたの!瑞嶋も、みんなが呼んでるからって無理にマドンナって呼ばなくてもいいから」
「いいじゃないもう!ほら、瑞嶋チャンさっきの続きは?」
アタシに睨まれながらも、楽しそうに身体を揺らしていた茉菜。そんな茉菜の様子をうかがいながら瑞嶋は口を開いた。
「あっ⋯⋯まあ、嫌な奴らを由加梨が成敗してくれたって感じかな」
「はあー?アタシが?」
首を傾げるタイミングが茉菜とかぶる。
「そう。同じ中学だった奴らに、ずっとコソコソ言われてて。その日は廊下で『瑞嶋は相変わらず1人だな〜可哀想。そのうち高校も辞めんじゃね』って。さすがにキツいかもって時にヒーロー参上!⋯⋯みたいな」
懐かしそうに喋る瑞嶋の顔は、ほころんでいた。
「腹立つわね〜ホンっと嫌な奴ら。でもヒーローって。それ面白いわね!それでヒーローは?何て言ってくれたのかしら」
「え、えっと『ダッセー高校生になってもまだ、あんなこと言う奴いんだ。可哀想なのはどっちだよ』って。そしたら、みんな気まずそうに黙り込んでた」
アタシと茉菜は目を合わせた。それからちょっとしてフフッから爆笑に変わった。
そんなアタシ達を見て瑞嶋もつられたのか、握った手で口元を隠した。
「ハァ⋯いつも由加梨そんな事ばっかしてるから、どれのことか思い出せないわね。しかも瑞嶋チャン再現度高いわね〜」
また瑞嶋はいつもみたいに手で顔を隠した。
「⋯⋯うん。でも由加梨は怖がられてたから、奴ら、何も言ってこなくなったんだ」
「は?待ってアタシ怖がられてんの?」
腹を抱えて、アタシを指差す茉菜。
「由加梨アンタ怖がられてるって」
「あ⋯⋯真中さんもだよ」
「へ?ワタシも?」
「だって彼氏さんってボス?とか呼ばれてる人だよね。でも、真中さんも怖いし」
「ワーターシーは怖くないわよ?」
言い方が面白くてアタシも茉菜を指差して笑った。
「茉菜もじゃん!⋯⋯って良かった。アタシ達が話しかけられないのって、嫌われてたからじゃないってこと?」
「フフフッ!そうみたいね。ワタシ達、怖がられてただけみたい」
アタシたちはまた大爆笑してしまった。今度は瑞嶋も一緒に。あんなふうに笑うのは意外だったけど。
「瑞嶋って、めっちゃ笑うとか出来るんだ」
「え、俺のこと人じゃないって思ってる?」
ツッコまれちゃったけど、こんなに学校で笑ったのは久しぶりだった。
目の前に瑞嶋がいるのが不思議。
「瑞嶋って好きな食べ物なに?」
「え、急すぎる⋯⋯」
アタシもびっくりした。先に動いたこの口が。
「ちょっと、どうしたのよ由加梨!」
⋯⋯あっ、茉菜もいたんだった。
心臓がザワつく。明日のことを考えて。