今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~
6話 悪魔は誰にもなびかない
初めてのボーナスに浮かれている間もなく、夏の繁忙期に会社全体が追われていた。
あちらこちらでコピー機はフル稼働。
電話もいつもより鳴りっぱなしだ。
このフロアも、ざわめきと色んな音がひしめき合っている。
「はい。助かります、それでは納期を今週末でお願いいたします」
受話器を置いて、大きく息を吐いた。
「山根さん、先方からOKでましたっ」
「それじゃ至急、営業部の棚橋さんにメールして。あと、これも入力頼むね」
山根さんから束になった伝票を預かり、管理表を開く。
(あ……)
あの日以来、佐久間主任とは会社でも会っていない。
そもそもフロアの階も違うし、納品に行っても彼の姿は無かった。
(……別にいいけど)
そう言い聞かせて、寂しいと思う自分を軽くいなして、入力していく。
目処が立ったので、甘い飲み物が欲しくて休憩室に向かった。
すると、その隣の喫煙ルームでひときわ背の高い男性が目に入る。
(え……?なんで?!)
ダークグレーのノーカラーシャツ姿の佐久間主任が、悠然と煙を吐いている。
情シス部は別の階で、そこの喫煙ルームが近いはず。
そんな疑問よりも先に、あたしの足は止まり、視線を外せなくなっていた。
(……会えた)
そう思った瞬間、胸の奥がふわっと軽くなる。
(え……?)
自分の反応に、自分が一番戸惑った。
ふいに、あの漆黒の瞳がこちらを向く。
(……あ、目が合った)
佐久間主任の唇が動いた。
『なに?』
厚いガラスに遮られて、声は聞こえない。
「……え?」
思わず首を傾げると、主任がタバコを持ったまま、もう一度口をゆっくり動かした。
『見・て・る・や・ろ』
(……??)
今度は何となく分かったような、分からないような。
眉を寄せていると、主任が小さく息を吐いた。
その数秒後、喫煙ルームの扉が開く。
シトラスに混じったタバコの香りが、冷房の効いた廊下にふわりと流れた。
「さっきから見てるやろ」
「あ……すみません!」
「なんで謝んねん」
呆れたように言いながら、主任の視線があたしの腕の中にあるアイスココアへ落ちる。
「……?」
すると、頭の上に、何かが乗った。
「え?」
手を伸ばして取ってみると、キャンディ包みのチョコレート。
(……このチョコ、主任の机にあったやつ)
「あの、これ……」
佐久間主任は答えないまま、喫煙ルームに戻った。
そして、こちらを見ることもなく、煙草を咥えて火をつけている。
「……くれるんですか?」
『いらんなら返せ』
声は聞こえなくても、唇の動きで何となくわかった。
「いりますっ!」
咄嗟にチョコを握りしめる。
すると主任の口元が、ほんの少しだけ動いたような気がした。
一礼して、自分のデスクに戻る。
(……また、分かんなくなった)
手の中のチョコは、ほんのり主任の匂いがした。
あちらこちらでコピー機はフル稼働。
電話もいつもより鳴りっぱなしだ。
このフロアも、ざわめきと色んな音がひしめき合っている。
「はい。助かります、それでは納期を今週末でお願いいたします」
受話器を置いて、大きく息を吐いた。
「山根さん、先方からOKでましたっ」
「それじゃ至急、営業部の棚橋さんにメールして。あと、これも入力頼むね」
山根さんから束になった伝票を預かり、管理表を開く。
(あ……)
あの日以来、佐久間主任とは会社でも会っていない。
そもそもフロアの階も違うし、納品に行っても彼の姿は無かった。
(……別にいいけど)
そう言い聞かせて、寂しいと思う自分を軽くいなして、入力していく。
目処が立ったので、甘い飲み物が欲しくて休憩室に向かった。
すると、その隣の喫煙ルームでひときわ背の高い男性が目に入る。
(え……?なんで?!)
ダークグレーのノーカラーシャツ姿の佐久間主任が、悠然と煙を吐いている。
情シス部は別の階で、そこの喫煙ルームが近いはず。
そんな疑問よりも先に、あたしの足は止まり、視線を外せなくなっていた。
(……会えた)
そう思った瞬間、胸の奥がふわっと軽くなる。
(え……?)
自分の反応に、自分が一番戸惑った。
ふいに、あの漆黒の瞳がこちらを向く。
(……あ、目が合った)
佐久間主任の唇が動いた。
『なに?』
厚いガラスに遮られて、声は聞こえない。
「……え?」
思わず首を傾げると、主任がタバコを持ったまま、もう一度口をゆっくり動かした。
『見・て・る・や・ろ』
(……??)
今度は何となく分かったような、分からないような。
眉を寄せていると、主任が小さく息を吐いた。
その数秒後、喫煙ルームの扉が開く。
シトラスに混じったタバコの香りが、冷房の効いた廊下にふわりと流れた。
「さっきから見てるやろ」
「あ……すみません!」
「なんで謝んねん」
呆れたように言いながら、主任の視線があたしの腕の中にあるアイスココアへ落ちる。
「……?」
すると、頭の上に、何かが乗った。
「え?」
手を伸ばして取ってみると、キャンディ包みのチョコレート。
(……このチョコ、主任の机にあったやつ)
「あの、これ……」
佐久間主任は答えないまま、喫煙ルームに戻った。
そして、こちらを見ることもなく、煙草を咥えて火をつけている。
「……くれるんですか?」
『いらんなら返せ』
声は聞こえなくても、唇の動きで何となくわかった。
「いりますっ!」
咄嗟にチョコを握りしめる。
すると主任の口元が、ほんの少しだけ動いたような気がした。
一礼して、自分のデスクに戻る。
(……また、分かんなくなった)
手の中のチョコは、ほんのり主任の匂いがした。