きみはフレームの外で笑う
プロローグ

プロローグ





26歳になった私が最初に与えられた仕事は、
町一番のケーキ屋を取材し、市の広報に載せること。


初めてお店に入った瞬間。

甘い香りに包まれた空間で、その人だけが少しも甘くない顔をしていた。

「市役所広報課の倉嶋です。今日は取材のお願いに——」

「顔は出しません」


差し出した企画書を、彼は受け取ろうともしなかった。


それが、町一番の人気パティシエとの出会いだった。

このときの私はまだ知らない。

カメラの前では決して笑わない彼が、いつかフレームの外で、私にだけ笑ってくれることを。



< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop