きみはフレームの外で笑う
6.
「いらっしゃいませ」
入店すると、明るい声とともに甘い香りに包まれる。
白と茶を基調とした店内には入口付近に焼き菓子のカゴが並び、3段ボックスにはクッキーを詰め合わせが綺麗に並ばれていた。
昼休みの時間だったので、私含めて3人しかいなかった。
そのうちの2人は店内で紅茶と共にケーキを楽しんでいる。なるほど、イートインスペースもあるのか。
ショーケースの前に移動すると色とりどりのケーキやタルトが並んでいた。
ふんわりとした苺のショートケーキ、濃い茶色のチョコレートムース、艶のある桃が並んだチーズタルト。どれも飾りすぎてる訳では無いのにキラキラと輝いていた。
昨日作っていたベリーのムースも並んでいる。
そういえば愛子が言っていた桃のレアチーズタルトは、この店のナンバーワンケーキらしい。
プレートを見てみるとどれも澤田さんの名前が書いてある。
澤田さんの自信作。この舌で堪能させて頂こう。
『すみません。』
「はーい!」
パッと前を向いたら驚いた。
カウンターに居たのは干場さんだった。
近くで見ると、私より少し年下に見えた。目が合うと、干場さんは人懐こい笑顔を浮かべる。
「どのケーキになさいますか?」
『じゃあ……この桃のレアチーズタルトとチョコレートケーキで。』
「はい!店内で召し上がられますか?」
すぐに店内で食べることもできるのか……
流石街一番のケーキ屋。
『はい。』
「お飲み物は如何なさいますか?」
干場さんが開いたメニューには、数々の紅茶やジュースが並んでいた。
マルコ・ポーロ……ずっと気になっていた紅茶。
『ではこのマルコ・ポーロで。』
「マルコ・ポーロですね。
かしこまりました。そちらのお席でお待ちください。」
干場さんに案内された窓際の席に座り、鞄を隣の椅子へ置く。
しばらくして運ばれてきた艶のあるケーキは、ショーケースで見るよりも綺麗だった。
白い皿に乗ったチョコレートケーキと桃のレアチーズタルト。横には、小さな銀色のフォーク。
ポットからカップへ紅茶を注ぐと、甘い香りがふわりと広がる。
お腹がすき、もう待ちきれなくて銀のフォークを手に取った。
『頂きます。』
まずはナンバーワンの桃のレアチーズタルト。
サクサクのタルト生地と黄色いチーズクリーム、桃のコンポートを1口大に切り、口に入れた。
……何だこれ美味しい。
桃のコンポートがくどくなり過ぎないように、 タルトはより香ばしく焼かれ、チーズクリームもレモンが多めでサッパリとしていて食べやすい。
全てを知り尽くしている感じがして、非常に計算されている繊細な味だ。
次はチョコレートケーキ。
ん!これも美味しい。
濃厚なチョコクリームと軽やかなスポンジ、アクセントのクルミもカリッとしてて美味しい。
濃厚なのに、重くない。最後に少しだけ苦みが残り、すぐにもう一口食べたくなる。
これをあの澤田聖都が作っているのか……
忘れないうちに感想を書いておこうと、鞄から小さな手帳を取り出す。
夢中で感想を書いた後、美味しいケーキ達を最後まで堪能しかけていたところ。
隣に佇む白い制服の男性に気が付かなかった。
『もう来ないでくださいと言いましたよね?』
恐る恐る見上げると、昨日と同じ眉をひそめた澤田聖都が立っていた。